俺は街に来ていた。

鈴木の奴が新アイテム開発とかいって閉じ籠っているからだ。あぁなったら一週間はでてこない。
一人で暇なので買い物でもしようと思って。


町なかを歩いていると、見覚えのある顔に出会った。

「やぁ、死々若丸じゃないですか。」
蔵馬だ。
それともう一人―
「何?!あぁ〜ほんとだ!洋服着てるから気付かなかったぜ。」
「あぁ、失敗ヅラか。…街で和服は目立つからな。」
蔵馬の隣にいたのは確か桑原…とかいう阿呆な奴だ。
「おま…!何度も何度も失敗ヅラ呼ばわりしやがって!いいか、俺様には桑原和真という素敵なお名前があるんだ!覚えとけ!」
「…長くてけったいな名前だな。」
「ん・だ・とぉ〜!?」
「まぁまぁ、落ち着いて。」
殴りかかろうとする桑原を蔵馬が制止する。
「死々若丸も、いい加減桑原君のこと名前で呼んであげてくださいよ」
「ふん」

そこへもう一人、うるさいのがやってきた。
「わり〜わり〜ぃ」
「浦飯ぃ!おせぇぞテメー」
「幽助!」
浦飯幽助だ。
「おぉっ?死々若丸じゃねえか。洋服なんで一瞬気付かなかったぜ。」
「どいつもこいつも…」
「?」

こいつらは、久々に会うために待ち合わせをしていたらしい。
「これからお茶でもどうです?死々若丸も。」
「いいのか?」
鈴木もいないことだし、(あーなるとロクに飯も食わない)せっかくの誘いだ、のってみることにした。


とある喫茶店…
「どうです、人間界の暮らしは慣れました?」
「そか、今はばーさんの土地で暮してるんだっけ。」
「あぁ、まあまあだ。ただ…やはり和服が一番だな。これは窮屈で仕方がない。」
「フフ、俺も最初は戸惑いましたよ。南野秀一として生きはじめてから…」
南野‥秀一。

「なぁ、一つ訊きたい。」
今日の俺には、なんだか気になることがあった。
「ん?」
「…何故人間の名前はそのように長くてこ難しいんだ?ウラメシとかユウスケとか、どっちが本当の名なんだ?」

三人はきょとんとした。
少しの間の後、桑原と幽助が笑いながら話しだす。
「俺に言わせりゃ妖怪の名前のほうがよっぽどむづかしいっつーの!」
「あぁ、魔界に行って分かったが、ありゃ漢字検定にでも出るのかってー勢いだぜ。」
「死々若、人間の名前は‥国や宗教によっても違うんですけど。二つのパートからできていまして、「浦飯」が名字で「幽助」が名前。」
「いいかー、名字ってのは血筋を表す。下の名前が自分自身の名だな。つまり!俺は「浦飯さん家の幽助君」ってなわけよ。」
(…?)
「わかりづらいかもしれませんね。魔界ではあまり血縁関係を重要視しないから。」
その通りだ。人間というのはつくづく面倒臭いことが好きらしい…
「でも妖怪もいろいろですよ。氷女みたいに一人で分身を産む例もあれば、人間と同じように家族意識の強いものもいる。」
「浦飯も親父と会ったんだろ?」
「おぉ。殴り合いしかしてねーけどな。」
「黄泉も、修羅を溺愛してますしね。」

…なるほど。
しかし、親子だのなんの俺には関係のない話だった。

と、ここで浦飯がいきなりとんでもないことを言い出す。
「そういえば…あの六人組の中で女がいないのって、おめーだけじゃねぇか?」
「っっ!!?」
「ほら、陣たちはまだ正式につきあったわけじゃなくても、あのネーちゃんたち押しがつえーからなぁ。」
「お前、あんときのファンクラブとか健在なのかよ?」
「…あんなもんは畑のジャガイモやかぼちゃとかわらん。」
「お〜お〜若様ったら。ジャガイモだなんて随分庶民的になったもんだなぁ。」
くぅぅ…こやつ、手元に死出の羽衣があったら三度はるか異次元まで飛ばしてやるものを!!
「そういえば蔵馬、おめーは?」
「そうだ、こいつも特定の女がいやがらねぇ。」
「は〜ん。おモテになる方は一人に選べなくて大変だーっと。」
全く、不愉快な奴等だ…

もう帰ろうかと思ったその時。
「でも名字といえばよう、鈴木って妙だよな。」
え?
「確かに…まるで人間の名字みたいですよね。それでいて下の名前がある様子もない‥」
「あいつ昔は「田中」だったんだろ?「鈴木」が本名かもあやしいぜ。」
「本当の名を隠しているかもしれない・ということですね?」
俺は衝撃を受けた。出会った頃にはあいつは「鈴木」だったし、それが人間の名字だとは知らなかったのだ!
「そのうち「山田」とか名乗り出すんじゃねーの?」
「可能性は大です。」
「…!」

な…なんということだ‥‥
俺は鈴木のことなら大抵は知っていると思っていた。それが…こんな根底から覆されるなんて!!

帰宅後、鈴木は相変わらず部屋から出てこない。
早く俺の前に姿を表してくれ。そして真実を教えてくれ!!

(しかしこの後、若はその発明の実験台にされたショックで三日寝込み、名前のことなど思い出す余裕がなかった。)


…オチが微妙だ…
いやね、鈴木の本名ってなんだ?!ってのを書きたかったんだけど。
導入部分が長くなって結局最後ちょびっとしか触れてねえじゃん!!
‥どう思いますか?本名。ね!気になるでしょう!!(そうか?)