不覚だった。
自分がこんなにも平和ボケしているとは…
魔界にいた頃には絶対に想像できなかった穏やかな生活。
現実はなにひとつ変わっていなかったというのに。
すっかり緊張感を失っていた……



「死々若、飯だぞ〜♪」
故・幻海の土地の一角で、鈴木と死々若丸が共同生活を営んでいる。
たいてい食事の支度は鈴木がこなしていた。

鈴木は料理がうまかった。
もともとアイテムの開発や怪しい薬を発明するのを得意としていたから、手先は器用なのである。
今日も食卓にはご飯、豆腐と若芽の味噌汁、刺身に煮物…と、いろとりどりに並ぶ。

「どうだ、死々若、うまいか?」
「あぁ。とくにこのスキヤキ風煮込みがよくできている。」
異様にうきうきしている鈴木を死々若丸は気にしていなかった。大好物のスキヤキ風の煮物に夢中だった。
「よし、どんどん食え♪」
こんな風にこの日の晩飯は終わった。

しかし…

「う゛…?!」
食事のあと、死々若丸は体調の変化を感じた。なんだか息苦しい。それに妙に熱い。
「鈴木…」
よろよろと、台所にいる鈴木の元へと行く。
「無理するな。横になっていろ。」
そう言うと鈴木は死々若丸に肩を貸して寝室へ運んだ。
死々若丸は意識がもうろうとしながら、鈴木が自分の体調が悪いのをすぐに悟って優しくしてくれたのがうれしかった。


しかし翌日…
死々若丸が目覚めたのはもう昼になった頃だった。
体調はすっかり回復。

「んん〜…」
体を半分起こして大きく伸びをする。
バサバサッ
「ばさばさ…?」
後ろの方から妙な音が…
おそるおそる、振り返ってみる。
そこには‥死々若丸の背中には、真っ白な翼が生えていた。

「なんだぁこりゃああ!!」
だだだ
ばんっ!!

勢いよく居間に飛び込んできた死々若丸には殺気がみなぎっている。
それを全く気にしていない様子で、鈴木は目を輝かせる。
「やったぁ成功だ!!!」
ばこっ
死々若丸怒りの鉄拳がヒット。
鈴木は本棚に激突し、頭から血を流している。
しかし、それでもニコニコしながら
「どうだ?綺麗だろ〜。天使か女神のようだぞ、死々若!」
…そもそも"女"神になれるわけはないのだが、いきなり鉄拳をかます死々若丸の様子は天使というよりも鬼だった。

ふざけるな!!貴様また俺に妙な薬を盛りやがって…」
「おいしかったろ、あの煮物♪」
「!!」
背中に羽が生える妖しの薬は、あのスキヤキ風煮込みに仕込まれていたのだ。

(そうだ…そうだった…)
あの時の鈴木の様子は明らかにおかしかった。
そんなときはきまって何か仕組まれているのである。
死々若丸は、二人で暮し始めてからもう何度もこの様な目に遭っていた。
それなのにすっかり油断していたのである!!
(何という不覚……)

自分のふがいなさにショックを隠しきれない死々若丸。
「さ、その翼で羽ばたいてみせておくれ♪」
キッ
鋭くにらみつける死々若丸。
「アホか!!」
怒りに任せ、必殺の剣をふりまわす。
ドクロが鈴木を襲う。
「だいたい、こんなものなくても飛べるだろ!」
「でもほら、絵的に派手にしてみようかな〜って。ぅわっ!」
再びドクロの大群が飛び出す。
「し、死々若〜。」
死々若丸は本気だ。

「だっ大丈夫、それはまだ試作段階だから。十日もすれば羽はすっかり抜けて元にもどるんだよ*」
つまり、十日も背中に羽が生えた状態でいなければならないのである。
「死々若ってば!悪かったよ〜。。」

必死に謝る鈴木だったが、死々若丸はすでに聞く耳を持っていなかった。
「よりによって俺の大好きなスキヤキ風煮込みに毒を盛るとは…」
※毒ではないのだが
「いっぺん死んでこ〜〜いっっ」
魔哭鳴斬剣のみね打ちホームランで、鈴木は空のお星様になってしまった。
キラ〜ン*

「まったくもう…」
深いため息をつく。
この様な事態は久しぶりだった。
しかし死々若丸が怒っていたのは、勝手に人体実験を行った鈴木に・ではなかった。
そんなマッド野郎と一緒に暮しながら警戒することを忘れた、たるんだ自分の精神が許せなかった。
(気を引き締めなければ―)
崩れた本棚、こなごなの畳、崩れた壁、開いた天井。
それらの(自分が荒らした)かけらを片付けようともせずに、死々若丸は瞑想に入った。
黙々…


ひゅるるるる
ずごん!
一方、吹っ飛ばされた鈴木は、陣と凍矢の住まいに墜落した。

いきなりこいつが降ってきた家の住民はたまったもんじゃない。
「鈴木!」
「あいたたた…よう!お邪魔します。」
「‥‥邪魔だ。」
凍矢の冷気があたりをつつむ。
「そ、そんなに怒らなくても…(涙)」

喧嘩の度に降ってくる鈴木の世話をするのは飽々だった。
しかしそれでも一応は仲間だ。手当てくらいはしてやる。
「いったい死々若丸に何しただ?」
「どうせまた奇妙な発明に巻き込んだんだろ。」
凍矢は冷たくて、鈴木は反論できない。

「死々若は短気だから鈴木も大変だべ。」
…誰だって勝手に実験台にされたら嫌だが。
陣の、まるで「自分なら怒らないのに」ともとれる発言に鈴木の目が光る。
「陣ん、俺の味方はお前だけだ!よし、この飴をやろう」
「わ〜い」
ばしっっ
飴を差し出した鈴木の手を凍矢がひっぱたく。
「妙なもん与えるんじゃない(▼皿▼メ)」
辺りを冷ややかな妖気が包んだと思うや否や、鈴木がかちこちに凍っていた。
「頭を冷やしてろ!」


そして、瞑想に耽っている死々若丸―
だいぶ気持ちも静まってきた。
そっと目を開ける。

どれくらい時間がたっていたのだろう。真っ暗で周りが何も見えなくなっていた。
いや、いくらなんでもそんな真夜中になっているわけはない。実際ははまだ日が沈んだばかりの夕方だった。

とりあえず立ち上がって歩き始める。
ごんっ
タンスに頭を強打。
今の死々若丸は、真っ白な翼が生えた副作用として鳥目になっていたのだ。

何も見えない…。そういえば腹も減った(昨日の晩飯以来何も口にしていない)
「あいつ…早く帰ってこないと殺す!」
再びイライラしつつ、仕方ないのでもう一度あぐらをかいて瞑想の姿勢に入る。

と、人の気配がした。
「誰だ?」
ぎしっ
気配は近付いてくる。
そして死々若丸の前に座った。
「鈴木なのか?」
鳥目の死々若丸には目の前にいる人物が誰なのかがわからなかった。
やってきたのは鈴木を凍り付けにした凍矢だった。

「おいなんとか言え。斬るぞ!!」
強がっている。本当は心細いのが凍矢にはバレバレだ。
可愛い奴―
凍矢は思わず髪を撫でる。

「―鈴木じゃない。」
いつも自分に触れてくる手と違う。そう感じた死々若丸は手探りで相手を確認する。
自分より細い体にひんやりとした空気。
「凍矢‥か?」
「ばれてしまったか。…それが今回の喧嘩の原因か?」
そうつっこまれて、死々若丸はかっと赤くなった。
「これは…///」

「目が見えないのか。副作用?」
こくんとうなずく死々若丸。
「ふーん…」
これは面白い―
がばっ
凍矢はいきなり死々若丸のことを押し倒した。
「ととと凍矢?!」
見えない死々若丸は何をされるかわからない。
「おいってば…」
緊張と恐怖で鼓動が高鳴る。
「と…」

ぱっ
急に視界が明るくなった。
目の前には凍矢の顔が。唇が奪われる手前5mmのところだった。

「とぉやぁぁぁ〜〜!!!」
明かりをつけたのは鈴木だった。
全身から怒りがみなぎっている。
「あぁ、生きていたか。」
「生きとるわ!!お前は…どさくさに紛れて死々若になにしてんだ!!」
しかし当の凍矢は聞いていない。
何事もなかったように立ち上がる。
「綺麗な羽じゃないか。なかなか似合っているぞ。」
そう死々若丸に笑いかけると、颯爽と去っていった。

「さ、帰るぞ陣。」
「あの二人は大丈夫だべか?」
陣は玄関口で待っていた。凍矢に手を借りて立ち上がる。
「大丈夫だよ。」
…いつものことだ。
二人は住処に帰っていった。

「大丈夫か?何もされなかったか?」
鈴木が駆け寄って、強く強く抱き締める。
「苦しい‥」
死々若丸がそっと離れる。
鈴木とまだ目を合わせてくれない。

「‥ごめんよ、死々若。」
ちょっぴり上目使いにそう言う。
それでこっちを向いた隙に、キスをする。
これが二人のいつもの仲直りだった。

(あぁ‥やっぱりこれだ―)
この腕、この胸、温もり、香り、全てが慣れ親しんだ鈴木そのものだった。

凍矢があんな風にちょっかいを出してきたのは、二人の気持ちを確認させるためだったと死々若丸は気付く。
「たく‥余計な真似を。」
「?」

鈴木の腕から抜け、立ち上がると死々若丸は冷たく言い放った。
「なにぼけっとしてるんだ、早く部屋の修繕をしろ!」
「えぇっ、今から?!」
すでに空には星が出始めているのが(死々若丸が壊した天井の穴から)よく見える。
「俺は飯を食う。お前の分はつくらんぞ。」
「そんなぁ!!」
台所へ去っていく死々若丸。
こんな態度だが、もう怒ってはいなかった。
いつものことだ。


夜中、作業が終わった鈴木が鳥目の死々若丸に夜這いを仕掛けたのは言うまでもない。


あいたたた!!何これ?!ギャグじゃないの??
凍矢ファンごめんなさい(死々若襲っちゃった!)鈴木ファンもごめんなさい(も〜散散!!)若ファンもごめんなさい!(天使の羽って/笑)ついでに長くてごめんなさい。やっぱりラブラブでごめんなさい。

私のイメージ「鈴木料理うまそう」→「でもあいつが普通の料理作るのか?!」→「じゃあたまに混ざってるってことで!」
というわけで書いてみました…。阿呆でごめんなさい治りません。