ある秋の日。
死々若丸は、陽のあたる場所にある壁にもたれかかり読書をたしなんでいた。
「読書の秋か。何読んでるんだ?」
珍しく周りを気にせずに熱中しているのを見て鈴木が覗き込む。
死々若丸が手にしているのは源氏物語・須磨の巻である。

…おもしろき夕暮れに、海見やらるる廊にいでたまひて、たたずみたまふさまの、ゆゆしう清らなること…

一節を声に出してみるが、古典は専門外である鈴木には意味がわからず、首をかしげる。
「このとき光源氏は都でいろいろあって、須磨でひっそり暮らしているんだ。
風情のある夕暮れ時に、海を見ながらたたずむ源氏の様子がたいそう神秘的で美しかったとある。」
さらに
「経文を読み上げるその声も、この世のものとは思えない…って、そんな風にいわれる源氏ってのはいったいどんな容貌だったんだろうな。」
と、死々若丸。
わなわな…
それを聞いた鈴木の様子がおかしい。
「そうだ!!私が求めていたのはこれだったんだ!!」
「はぁ?」
「その美しさが後世に語り継がれ、そして今みたいに庶民の想像を掻き立てる…。これこそ私が求めたものだ!!」

…源氏物語の話を聞いて、"美しい魔闘家・鈴木"であったときの情熱がよみがえってきたらしい。

「阿呆くさ…」
ひとり燃え上がる鈴木をよそに、死々若丸は場所を移動して読書を続けた。


ヤマなしオチなしイミなしごめんなさい。
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古典の授業中に、源氏の描写が美しすぎて鈴木さんがうらやむだろうな〜と思ったんです。