鈴木が風邪ひいた。
これというのも六人でサバイバル雪合戦なんかしたからである。
いくら雪の中何時間もいたからって、妖怪が風邪をひいてどうする、情けない。
そういえばあいつ、勝負の前からかまくら造るとかいってはしゃいでたな。…自業自得か。

その日は凍矢とスキヤキを食って、仕方ないので雑炊を作ってやった。
雑炊を持っていってやると、鈴木は異様に驚いていた。
そんなに意外か?俺だって看病くらいはする。どいつもこいつもひとをなんだと思っているんだ、失礼な。
そしたら調子に乗って"食べさせて♪"とかいうから、グーで殴ってやった。
そんな元気があるなら心配なさそうだな!


数日後

台所から聞こえる鼻歌。ときおり聞こえる咳。
鈴木の体調はすっかり回復していた。まだ少し咳が出るようだが、だるさは無く動くのに支障はないため今は飯を作っている。
俺は暇をもてあましてふと庭に視線をやる。快晴。
飯ができるまでまだかかるであろうから、その間少し庭を歩くことにした。

この間降った雪は、鈴木に付き添っているうちにすっかり溶けてしまったようだ。

ケホッ

あれ?
少し喉が痛い。昨日まではこんなことはなかったのに。
まさか鈴木の風邪がうつった?
なんて思ってみたりして。
そんなハズないよな。気のせいだ。たぶん埃とか吸ったんだ。

さて飯もできただろう、戻ろう。


しかし時間が経つにつれ錯覚と思い込んだものが徐々に現実味を帯びてきた。
時折苦しくなって咳をしたくなる。が、息を吸い込んで思い止まる。鈴木に気付かれたくなかった。
心配かけたくない…なんてそんな温い理由じゃない。
たぶん、鈴木をはじめ酎、鈴駒、陣までがやられたという風邪のウイルスに負けるのが嫌だったんだ。
あの雪の日、自分はそれから免れたのに今更になって陥るなんて間抜けにも程があろう…。それが嫌で、だんだん体の調子が悪くなるのを必死で隠した。
こんなものは早めに大事にしてとっとと葬るに限る。今日は極力こたつで安静にしていることに決めた。
鈴木の目には恐らく、いつも以上にぐうたらしている何気無い感じにしか映っていないだろう。


晩飯と入浴を済ませると、早々に寝室に篭った。
少し不思議そうな顔されたから、看病で疲れてるから眠いんだ、とか言っておいた。
今年の風邪はそんなに瞬発力にたけているのか…喉が痛いと気付いたのは日中なのに、もう既に頭がボーッとして 何をするにもだるくなっていた。

ひたすらに無心で目を閉じていた。こんなもの、寝て覚めたらなんてことなくなってる…はず。
やがて意識が睡眠の淵にたどり着いた。今にも夢の世界へ飛込む、そんな瞬間。
しかしそうならなかった。現実からうっすら光がさしこみ、それが俺の目を覚ました。
ふすまの隙間から光。浮かぶ人型のシルエットは勿論鈴木。

その時、我慢しきれなくてつい咳き込んでしまった。
しまった…いや、今のはちょっとむせただけで…。そんなこと聞いてくれない。
鈴木は俺の額に手をやった。水でも扱っていたのだろうか、冷たい。これじゃ熱があるかどうかなんてわかりゃしないじゃないか。
なんとかごまかせるかな…と思ったら、今度は額を触れてきた。
接点から伝わる温度が、わずかだが確実に…俺の熱の方が高くなっていた。
薬を持ってくる。そう言って、ついでにキスされた。
もう俺はなにも言えなかった。

せっかくばれないようにしていたのに、お前はどうして気付いてくれてしまうんだ。
自分だってまだ万全ではないくせに。
…どうしてあいつはいつもいつも、俺のことをちゃんと分かってしまってくれるんだ。


まもなく、鈴木は薬と水を持って再び部屋に現れた。
俺は薬を拒んだ。いくらなんでも人間用の風邪薬など、飲みたくないし効くとは思えない。が、これは市販の薬ではないというのだ。雪合戦の時に賞品にしようと言った新作とはこれのことだったのである。
その名もズバリ鈴木特製風邪薬…。
そんなもん余計いらんわ!
と、かすれた声で怒鳴ったらその開いた口に丸薬を放り込まれた。
すかさずコップを押し付けられ、半ば強制的に飲まされてしまう。
苦い…。
鈴木によれば、ひきはじめの風邪によく作用するものだから、今夜一晩ぐっすり眠ればたちどころに治ってしまうだろうとのこと。

だから、おやすみ。と頭を撫で、部屋を出ていこうとする。
その後ろ姿にかけたい言葉があった。
喉の痛みに阻まれて声にならなかったその言葉。もう一度言ってやる気にはなれなかった。
それでも鈴木には分かってしまったらしい。あいつも返事を口には出さなかったけれど。
また明日。そう微笑って戸を閉めた。



ありがとう


3100hit小説の続きっぽいです(^^;短めとはいえ一晩で書いちゃった自分に万歳!笑
鈴木さんが母親のようですね…いいなあ、鈴木ママ。海より深いその愛。
会話文なしって一回やってみたかったのですよ。