なんだか滅入っている。


特に何かあったわけじゃない。ただなんとなく気分が沈んでいる。
たまにそんなときがある。


疲れてるんだろうか。体調でも悪いのか。
昔のことでも思い出したのか。
別に理由なんて無いんだ。

空の青さが、まぶしい。

沈む夕日が切ない。


なんとなく。滅入っている。

無気力で
無闇に泣いてみたくなったりするときがある。

こんな日は一人でとことんまで沈むのが一番だ。





まだ太陽が沈みきらないうちから、鈴木は台所に立っていた。
晩飯の支度には早すぎる。
「お前…何やってるんだ?」
不審に思った死々若丸が声をかける。
鈴木はいつもの笑顔で、おたまじゃくしをくるっと振りながら答えた。
「悪い、今晩は実験室にこもる用事があるんだ。カレー作っとくから好きなときに食えな。」
「実験?…新しい研究か?」
感心するような呆れるような、死々若丸はまたか‥といった表情をする。
「魔界の植物の遺伝子を組み込んだ人間界の花がそろそろ咲きそうなんだ、夜開く花だから徹夜で見張っておかないと。明日の朝には帰るから。」
「そうか。勝手にしろ。」
少し不満そうに居間に戻る死々若丸。

ごめん…死々若。

研究のことは決して嘘ではないのだが、今晩は独りになりたいという気分だった。
こんな気持ちは誰にも気付かれたくなかった。





月が綺麗で心に痛い。
周りは静か。

死々若はもう寝ただろうか。

窓際の机に例の植物を置いて、月の光を浴びさせる。
自身は壁に寄りかかり、電気もつけないで真っ暗な天井を見上げた。

本当に別に何もないんだ。
でも、気分屋のつもりはないが時折こんなことがある。
きっと誰もがそうなんだろうと思った。
人生楽あれば苦ありというが、テンションにだって上がり下がりがある。そう思うから重大に捉えないようにした。

たまにはこんな日もある…けど…
言い聞かせるけれど止まらなくて、次々に普段忘れている嫌なことや悲しいことが浮かんできて、
胸が締め付けられるようで涙が出てきた。

自分はなんて脆いんだろう
こんな人間的な感情、妖怪である自分が持ち合わせていいんだろうか。

「情けなっ……」
発した声が震えていて、余計に情けなくなった。

今日はいい
今晩だけは、後で自分が馬鹿みたいと思えるほど存分に凹もう。





どのくらいの時間がたっただろうか。そろそろ滅茶苦茶に凹むのにも飽きてきた。
ふと見ると花はとっくに咲いていた。しかし、遺伝子の配合がうまくいかなかったようでもうしおれている。
「余計凹ますなよ…。」
ため息をつきながら、柔らかい茎を指でつまんでまっすぐ立たせた。手を離すとまたすぐに倒れてしまう。

顔を洗おうかな。
このままじゃ明日部屋から出て行けない。

鈴木の研究室は、本宅から少し離れた場所にあった。その理由はずばり危険だからだ。
時折大爆発を催したり、有害なガスを漏らしたりするこの研究室。中からは厳重に鍵がかけられ、部屋の外には「危険」「立ち入り禁止」などの札が多数貼り付けられている。
一つ一つ分厚いドアを開け、一番外側の扉にたどり着く。鍵をはずし、スライドさせる。
「ん?」
なんか扉が重い。開けづらい。
障害物は全部取り除いたはずだけど…
「痛っ」
!?

「急に開けるなよ……」
死々若丸だった。
立ち入り禁止と書かれたドアに寄りかかって座っていたのだ。
「な、何してんだお前こんなとこで…」
研究室にこもるのは一晩だけだと言ったはず。どうしても緊急の用事があるならノックをすればいい。
しかし死々若丸は部屋の前でじっと待っていたのだ。こんなことは初めてで、鈴木は驚きを隠せなかった。

死々若丸は座ったまま鈴木の顔を見上げる。
「お前が…」
「え?」

「お前が泣いてるような気がして。」


「な…」
ポーカーフェイスで、いつでも冗談めいているような鈴木だがこの台詞をごまかす余裕がとっさに出てこなかった。
「何言ってるんだよ、死々若…」
戸惑う鈴木にお構いなく、死々若丸は立ち上がり月明かりで鈴木の顔を確認する。
鈴木はとっさに顔を背けた。
目が赤い。

死々若丸は何も言わなかった。


見透かされた…
驚愕と羞恥とが混乱して、また涙がこぼれてきた。

「なん で…」

「なんとなく。」
さらりと言い放つ死々若丸。


「別に…たいしたこと 無いんだ。ただ なんとなく沈んでただけで…」
「理由なんてどうでもいい。」
「よ くない…こんな 大の男が泣く なんて…みっ ともなくって誰に も…」
息が苦しい。無理に普通に喋ろうとするから、余計涙が出て聞き苦しい声が出る。

「お前はいつも笑いすぎだ。表面だけ。」
鈴木を真正面から見据える。
「俺だって人前で泣くのなんて嫌だ。だが…

お前が俺に黙って泣くのはもっと嫌だ。」


鈴木は何も言えなかった。
今日は死々若がなんか優しくて素直だ。おかしい。
…いや、おかしいのは俺の方か。

「泣きたいときは誰にでもある…と思う。だからそん時はすがってきていい。理由なんて別に要らないから。」

「ししゎか…」


「泣いていいから、そのあと笑え。」
と、自分の胸に鈴木を引き寄せ、頭をなでてやる。

暖かい人の体温に気持ちが安らいで、しばらくすると涙は止まった。
深呼吸してゆっくり声を出す。
「なんか…いつもと逆だ。」
「そうだな。

それだけお前は俺を救ってきた。お前だけ滅入ってるなんてずるい。」


"ずるい"という表現がなんだかおかしくて鈴木は小さく吹き出した。
「あ、笑った。」

「うん。」

些細なことだけど、一時的なものだけど、だからといって押し殺してきた苦しみ。
理由なんて要らない
温かい言葉が何よりうれしかった。

これからはもっと甘えてみようかな


ありがとう。

お前を選んでよかった。
お前が選んでくれて、よかった。





翌日、夜。
「死々若ー!今日もお前の胸で寝かせて☆」
と、勢いよく寝巻きの死々若丸に抱きつく鈴木。
すっかり元気になって調子に乗っている。
阿呆かーー!!(爆吐髑触葬)」
というわけで、今日も元気なお二人でした。


キャラ崩壊でごめんなさい(^^;
阿呆な鈴木さんだけど本当は脆い・と思うので、出来心で滅茶苦茶にしてみました(滅)
てぇかこのオチは何(笑)