カレンダーの前にたたずむ死々若丸。
腕を組み、もう何分もにらめっこをしている。

「どした、死々若?」

通りすがった鈴木がその様子を不審に思って声をかける。


「これ。」
死々若丸が指差したのは今日…3月7日の日付。
『7』が花丸で囲まれている。

「今日はなにかあったか?」

印があるということはなにかがあるのだろう。それがちっとも思い当たらなくて、先ほどからずっと考えていた。


「ハテ…自分で書いて忘れたのか?」
「知らん、お前が書いたんだろう。」
「いや、俺だったらもっと派手に飾る!
 …よく見ろ、普通花丸だったら渦に花びらを描くだろ?これは丸に花弁が付いている。」
「?」

「おそらくお前が丸を描いた後で俺が花びらを描き足したんだ。」

「つまり…」

「「………。」」


なんで二人して忘れてるんだ…?





「おかしいな、デートだったらハートマークだろうし…なにかの記念日?
 ここに引っ越してきた…のは季節が違うし、初デート?初めて手をつないだ…初めて一緒に映画を観た…初めて死々若を鞄に入れて電車賃を誤魔化した…初めて牛丼を食べ
えぇいキリがない!そんなこといちいち覚えててたまるか!」


鈴木は うーん、と一言唸ると
「そしたらやっぱこれしかないでしょ」
と、死々若丸の肩に手をまわす。

「二人がはじめて結ばれた日☆」

どか

即座に死々若丸の右ストレートが決まる。


「なんだよも〜。」
立ち上がり、外れたふすまを直す。
と、
「あ!」
唐突な声。

「なんだ、思い出したのか?」
それに意味深な笑みで返す。

「なんなんだよ?」
「秘密。」
「あ?」

「思い出してくれなきゃ言〜わない♪」


言い残して鈴木はるんるんと去ってしまった。
またしばらくカレンダーの前で固まる死々若丸。




しばらくして、鈴木が茶と菓子を持ってやってきた。
「あれ、まだ考えてた?」
苛ッ!
「時計を見ていたんだ!」
「ハイハイ。」

鈴木が持ってきたお菓子は心なしかいつもより高級そうだった。
いったいなにがそんなにめでたいんだ?一人で浮かれやがって。

苛苛。



「日が暮れたら外へ行かないか? ほら、松林の奥の、小高い…あの辺。」
「何故。」

「星の綺麗なところがいい。」



***



まだ暖かいとは言い難いがそれでも着実に春が近づいているようだ。外に出れば随分日がのびたことに気づく。
うすら暗くなった空と隅で消えかけるオレンジの太陽が美しい風情をかもし出していた。

やがて完全に日も沈み、澄んだ空気が満天の星空を描く。


「いい天気でよかったなー。」
「あぁ。」
死々若丸は、理由もわからずつれてこられて若干不満だったが、確かに今日の空はやたら綺麗なのでとりあえず抑えた。

重苦しい雲に覆われた魔界では、滅多に晴れることはないし星など見たことがない。

「暗黒武術会に、魔界統一トーナメントか…」


と、今まで立っていた鈴木が死々若丸の隣に座る。

「寄るな。」
死々若丸はまた不機嫌そうな顔を見せる。
「ひとりで感慨深げにしやがって、教えんと殺す!」

刀を突きつける。
それでも鈴木はビビることもなく。

「…なにそんなに楽しそうにしてやがる。」
へらっと笑う顔に斬る気も殴る気もうせてしまった。


一人で思い出せないからとその様子を面白がられているんだ。と思ったら悔しくて仕方が無かった。

「死々若。」


それを察した鈴木は、そっぽをむいたまま振り向かない彼の頭を後ろから撫で撫でする。
「覚えてなくていいんだよ。」

それはつまり、なにはなくとも二人でいられるということ。
二人が近づいたという証拠。



あの日 以来。


「ちっともわからん。不快だ。」
とかいいつつ、体はすっかり鈴木の腕で拘束されて抵抗する様子もない。


「いいか、来年までには思い出してやるからな!」

「…去年もそう言ったこと、覚えてないでしょ。」



月と星以外に灯りを持たない彼らはそのまま夜を堪能した。


結局何の日なのかってのは、私も知らないので許してあげてください。(滅)
勝手に制定・鈴若記念日。今年はこれをもって祝い事としたいと思います。