お前はたぶん俺よりも長い時間を生きていて、

お前はたぶん俺よりもいろんなことを知っていて、

お前はたぶん俺よりもいろんな世界を持っている。

だから、

もしも二人が全く違う世界に別かたれたら、お前は俺のことを忘れてしまうんじゃないかと思う。








WanderVogel 〜ワンダーフォーゲル〜






二人 荒くれた岩山を往く。 魔界を彷彿とさせる広大な自然

唯一最大に違うのは、どこまでも突き抜ける青い空と いつまでも照らす太陽
あまりにも輝かしすぎて、なんだか居心地が悪い気さえした。

それで調子が狂ったのか。
足を踏み外して転落。俺としたことが。

遠い空が更に遠くなった




ふと

見上げた空に渡り鳥



きっと別段珍しくもないはずの鳥
それなのにやけに美しく見えるのは 力強いその翼のせいか
こちらを見向きもしやがらない

地面を這う こんなにちっぽけな自分がむなしく思えた。

空はこんなに広いのに、岩場に視界をふさがれどこにも行くことができない。
取り残されたような気分でふてくされる。



アイツはどこへ行った?

瞼にその姿を描く


一瞬 翼が見えた気がして背筋が寒くなった。












お前は自由だ



名にも体にも縛られることがない

どこに行ってもきっと生きていける
きっとどこでも自分を咲かせられる






お前は、俺が、必要だと

今は言う




しかし



もしも俺が駄目になったら

俺が世界から消えたら


そして何十年も経ったら


それでも お前は笑っているだろう。


どんなに嘆いたとしてもいつかは過ぎ去り、

そして 俺を愛したように 俺じゃない誰かを愛し
…俺が愛したように、俺じゃない誰かにお前は愛される。



渡り鳥のように お前は俺を残し消えてしまうんだろう?
きっと
自分には翔べないと思った
空は 果てしなく遠く感じた


高く手を伸ばす
届かないとわかっているのに。

渡り鳥はとうに見えなくなっていた





その時。




「死々若」


「死々若!」



声に驚いて振り向く視線の先

舞い降りたのは


「鈴木…」



この険しい道を探し回ったのだろう、土に汚れところどころを擦り切っていた。


「よかった、死々若のことだからひとりでどっか飛んでっちゃうかと」

…阿呆。

それはこっちの台詞だなんて
思ってるなんて お前は思ってもみないのだろう


「戻ってくると 思ってなかった。」
本当に、そう思っていた。

「なんでだよ。

そんなことあるわけ無いだろ?」
鈴木は何の疑問も持たないで、手をとる。

少し汚れたその手に触れた途端 なんだか閃いて、世界の色が変わった。


あぁ、そうか。

渡り鳥はまた戻ってくる
どこに行ってもきっと

心さえ遺してくれたら


つながれた その汚れた手は、暖かくて
安心した。



だから 自ら離した。

はぐれても
もう大丈夫だとわかったから


鈴木は少し驚いていた。
それでも再び手をつなぐことはせずに

少しだけ笑った。

背景素材提供*MIYUKI PHOTO


タイトルからお話を書くのは珍しいです。
フツーに考えたら、"渡る彼に寂しさを覚える"なら鈴木→死々若なのだろうなあ。でも逆。
なんでだろうか。"死々若の孤独感を埋める鈴木さん"が好きだからかな。今思った。そうかそうだったのか。
でも若さん一人でも生きていけそな気も…(元も子もない)