それは、俺だけが知っている色。
妖怪の濁った返り血ではない。きれいな赤

タンクトップ姿で居間に参上した鈴木を見るなり、死々若丸はどこかから上着を持ち出してそれを投げつけた。
「ふぇ、何、着ろって?」
顔面にあたり床へ落ちたシャツを拾い、なにかあるのかとまじまじ眺める。
「貴様には羞恥というものが無いのか!」
ハテ何のことだと自分の姿を見回せば、胸元、首筋、無数に昨晩の情事の痕跡が散らばっている。
「あぁ、コレ。」
露出の多いタンクトップだとそれが丸見えなのだ。
さすがに自分がつけたものとはいえあんまり堂々と見せびらかされるとなんともきまりが悪くて、だから隠せと死々若丸は。
「いいじゃん今日は誰か来る予定もないし」
などとぶちぶち口だけの反抗をしながら、無意味だとわかっているのでおとなしく用意された衣服に袖を通す。ボタンをしめ、問題のものがちゃんと隠れたのを見て、死々若丸は詰めていた息を短く吐いた。

「でも昨日の死々若、ちょっと凄かったよネ」
「なッ…!」
鈴木がニヤリと笑った。
「いつもはこんなにしてくれないじゃん。や〜従順で激バキッ
ゴシャーン ガラガラ…
よ く も まぁそんな事を…!耐えかねて振り回した右のこぶしを握り締め、わなわなと震える死々若丸。
「ったー…」
シャツを着たおかげで摩擦が軽減されてよかった、なんて思いながら崩れた壁の瓦礫から身を起こす。
「なんだよ〜本当のこ……死々若、顔真っ赤。」
キョトンとした鈴木の声に思わずバッと顔を上げた。
「すんごい赤くなってる。可愛い。」
そのなんとも嬉しそうな笑みと対称に、死々若丸はこれ以上の屈辱は無いといった不快の表情を作った。
「暑いだけだ!今動いたから」
「そぉ?」
「煩い!」
反抗するがしかし実際身体は熱かった。どれだけ赤面しているというのかわからないが、これ以上見られてたまるかととにかくそっぽを向いた。

「可愛い」
再び立ち上がった鈴木が前に回りこんで顔をよく見ようとするもんだから精一杯睨みつけた。
「黙れ」
「いいじゃん褒めてんだから」
「男が可愛いと言われて嬉しい筈が無いだろう。」
一生懸命怒りを表現しているのに、鈴木は退いてくれない。こんな圧倒的不利な状況が長引けばますます立場が保てなくなる。付き合ってられん、と捨て台詞を吐いてその場から逃げた。

自室に戻っても、熱は引いたが動揺は増すばかりだった。
いたたまれない
自尊心が高いがゆえに、気丈を保…ちたいのに理解されないのが耐えられなかった。
案外うぶな一面があるだなんて(実際そうだとしても)そんな風に思われるのは嫌だった。
情緒的なのは ガラじゃない… 絶対に、怒りとか憎しみとかの負の感情以外は。

しばらく静かにどうにか気持ちを落ち着かせ、腹も減ったので再び何気なく居間に戻る。
死々若丸の姿を見て鈴木は何か言いかけたが、キッと睨まれて黙った。
可愛いとかは論外。たとえ詫びの言葉だろうと、とにかくさっきの場面を蒸し返してほしくなかった。永遠に忘れて、無かったことにしてほしかった。

(警戒してる…。)
まいったなこりゃと鈴木は思った。怒っているのではない。それはわかる。ただ恥ずかしがっているんだ。そう思うと愛しくてまた笑みがこみ上げるが、そうすれば死々若丸がもっといたたまれなくなってしまうので我慢した。
全く、ほんとに、

何の前触れも無く、後ろから抱き締めた。
「ッ…貴様!」
急なことに驚き、暴れて抜け出そうとするのをしっかり押さえつける。
「これなら見えないから」
「は?」
「死々若の顔が赤くても青くてもわかんないから、怒んないで。」
優しく唱える。
「どういう理屈だ…」
文句と裏腹に抵抗は止んだ。
再び死々若丸の体温が上昇していくのを感じながら、どうしようもなく愛しく思う。

本人は嫌がってるから、傷つけてしまうからあまり言えないけど、俺は知っている。というか俺だけが知っていればいい。俺だけがそんな表情をさせることができると信じたい。
「頼むから他の奴にそんな顔を見せるな」
優しく力を込めると、聞こえないように空気にのせた。


恥ずかしがるということに恥ずかしがるという不毛なお話。これも独占欲ですね鈴木さん。
鈴木さん優しいですがイヤンの最中にはずかしめるのとは別ですからね。恥ずかしいからどうこうとか考える余裕を与えてあげないからね鈴木さんは。