「地獄だ、あれは…」
「美しい特訓ではなかった!」

武術会終了から数ヶ月。鈴木と死々若丸は、陣たちと人間界で修行をうけていた。
一気にS級妖怪クラスになりえたその修行の過酷さが、この言葉からも伝わってくる。



幻海邸では今日もスパルタな特訓が繰り広げられていた。
六人はみな息を切らし、床に倒れ込んで起き上がらない者もいる。
「よし、今日はここまでじゃ。明日は早朝訓練を行う。二時半に集合せい!」
((((((朝じゃねーー!))))))
六人は全員が同時にそう思ったが、誰一人声に出して突っ込める気力のあるものはいなかった。
「明日は俺が考案したスペシャルメニューを実践してもらいます。寝坊した人にはオジギ草ですよ。」
幻海の隣でそう言いながらにっこり笑うのは蔵馬だ。
蔵馬が呼び出す魔界のオジギ草に捕まればまず命はない…。
果たして明日の朝日を無事拝めるのか。不安を残しつつ、拷問のような一日がようやく終りをつげた。


「っん〜〜さっぱり☆」
一日の疲れと汗を洗い流しゴキゲンなのは、ご存じ 魔闘家・鈴木だ。
部屋に戻ってきたその手にはコーヒー牛乳。どうやら風呂上がりのお約束らしい。
「明日は早い。とっとと寝るぞ」
そう言うと 死々若丸は 部屋の電気を消してしまった。
「あぁっちょっと待て!」
「…俺を踏んだら殺す。」
あわてる鈴木に容赦ない殺気が向けられる。
どうにも自己中心的な死々若丸に、鈴木はいつもふりまわされっぱなしだ。

なんとか殺されずに 暗闇の中 布団にたどりついた鈴木。
二人はそれぞれ床につき 目を閉じてはいるがまだまどろまない。
少しの沈黙の後、鈴木が口を開く。
「…しかし、わからんものだな。武術会では敵だった奴らにこんな風に世話になることになるとは。」
「そうだな…。あ。そういえば!」
死々若丸がいきなり体のむきをかえ、鈴木に近付いた。
「お前 幻海に、俺より弱いと言われたそうだな!」
「あ…あれは…」
確かに、鈴木と戦ったときに幻海はそう言っていた。死々若丸は後日 誰かからその事を聞いたらしい。
「あんな阿呆な格好してるからだ。だから普通にやれと言ったろ?」
暗闇で見えないが、その顔には意地悪な笑みが浮かんでいるに違いない。
鈴木は悔しいが否定はできなかった。
「だっ、だがこうして修行を積んだ今はそうとも限らないだろ!」
「ま、あの頃よりは格段に強くなったな。」
「そりゃ、これだけ鍛えられたらな。」

毎日毎日の修行。それのおかげでどんどん妖力値が上がっていっている。
だが…
「「はぁ〜〜」」
二人は同時に深い溜め息をついた。
「…死々若、溜め息つくと幸せが逃げるぞ。」
「逃がすほどの幸せは持ちあわせておらん。」
「そりゃ、これだけ鍛えられたらな…」
二人は、そのハードさに少しめげていた。

「…何かあるとすぐ蔵馬が植物で脅すんだもんな。」
「あれさえなければもう少しマシなんだが。」
蔵馬は妖気で植物を操る。つまりその妖気を封じることができれば…
しかしこの手段は、下手をすれば画魔のように命をおとしかねない。
「もっと平和的にさ…弱味とかないかな。」
「脅迫か。」
あの蔵馬相手じゃ脅し返されそうなもんだが。
「よし、スキをみて弱点探しに入ろう!」

こうして、小さな反乱が始まった。


翌朝(といっても二時半)

6人は、寝惚けた頭も一発で覚める断涯絶壁に立たされていた。
「おいおい、底が見えねぇぞ。」
「落ちたらひとたまりもないな。」
戸惑う6人。
一方 蔵馬は相変わらず微笑を浮かべている
その笑顔の裏に隠されたものに嫌な予感がして、恐る恐る尋ねてみる。
「まさか…」
蔵馬はにっこりと答えた。
「今日はここを登ってもらいます。」
…?」
つまり…この底無しの谷につき落とされるという事だ。

「これくらい 風を使えば簡単だべv」
しかし…
「そうはいきませんよ。見てください」
促されて下をよく見ると、そこに生えている植物はすべて魔界のものだった。
「妖気に反応して襲いかかるものを集めてみました。自力で登ってきてくださいね。」
蔵馬のスペシャルメニューは容赦ないのだった。

「なかなかいい計画じゃな、蔵馬。登り終わったら今日は各自 自由な時間とする。明日までには帰ってくるんだよ!」
幻海の言葉が終わるや否や、6人は底にむかって蹴り落とされた。

「ぎゃー!」
落ちている途中、陣が つい癖で風を操ろうと出てしまった妖気に反応した植物に捕まった。

「ふっ深い…そのうえ体力だけで登らねばならんとは…」
ようやく落ちきった死々若丸が呟く。辺りは真っ暗で何も見えない。
鈴木もすぐ近くに落ちていた。
「おい、でもチャンスだぞ。これが終われば後は自由時間だ。」
「!」

そして二人は驚異的な勢いで上を目指し始める…が、長くなるので省。
酎はお得意のヘッドバッドで岩壁 壊しまくり、鈴駒はその落石に巻き込まれ、陣は何度も植物に捕まり、凍矢は低血圧で眠たい。そうこうしてるうちにあっという間に時間が過ぎた。


鈴木と死々若丸が一番で生還するころには すでに空が茜色に染まっていた。
「は…。やっと…着…た…」
そして幻海から合格を言い渡され、晴れて自由時間となった二人は、ボロボロに疲れた体を休める時間も惜しんで、蔵馬の弱点調査にはいる。

「今の時間だと…まだ学校にいるかどうか微妙ってとこだな。よし、まず盟王高校に潜入だ!」
「潜入ったって…一体どうする気だ?」
「フフフ…死々若、この魔闘家・鈴木のキャッチフレーズを忘れたのか?」
突如 妙な気合いのオーラが立ち上る鈴木。
「"千の姿と技を持つ"…ってやつか?」
「その通り!!」
ちょっとひいてる死々若丸にお構いなく、ますます燃え上がる鈴木。握り拳が固い。
「この私の手にかかれば校舎に紛れ込むなんて楽勝なのだ!」
「つまりは変装マニアだな。よし、早速行こう。」


そうしてやってきた盟王高校…言わずと知れた、蔵馬こと南野秀一が通う私立高校である。
教師風に変装した鈴木は、早速職員室へ。まずは蔵馬の成績関係を調べる気だ。
…しかしそこは秀才・南野秀一。いくらあさっても欠点など見付かるはずがない。

そうこうしていると、その様子を怪しんで、一人の教師が近付いてきた。
「どうかしたんですか…って、あんた、誰だ!!」
「あ……あのっ、月曜から教育実習に来ている鈴木と申します。担当は理科です、よろしくお願いします!そうだ〜、皆さんに紹介していただいたとき 先生 出張でいらっしゃったから知らなくて当然ですよね。挨拶が遅れてどうもすみません。」
「え…あ…そうなのか?」
「そうなんです!」
余計不審だろ…と鞄の中に隠れている死々若丸は思ったが、あえて突っ込まずにおいた。
しかし、その教師は笑顔と勢いにおされ、信じてしまった。

「それじゃ、急ぎますんで失礼しますっ」
そうやって逃げ出して、誰もいない廊下へたどり着いた鈴木。
「おい…ほんっとうに大丈夫なのか?!」
狭苦しい鞄から顔を出して死々若丸が鈴木を針で刺す。
「安心しろ、私の変装は完璧だ!さぁ 次は蔵馬の所属する生物部へ侵入するぞ* 」
…一体その自信はどこから来るのやら。

二人は生物部の活動場所である生物実験室へ。
「おい、そこの少年。蔵…南野君はどこにいるかご存じか?」
鈴木先生は、生物部員らしき生徒に声をかける。
「用事があるって今日はもう帰りましたけど…あなた、誰ですか?」
「私か?私はこの月曜から教育実習に来た…」
ちくり
鞄をつきぬけて死々若丸の針による突っ込みが入った。阿呆なこと言ってないで次へ進むぞの意だ。
「う‥まぁいい。ありがとう。それではさらばだ!」
少年は唖然とするばかり。

その後も、通りすがりの生徒を捕まえては南野君の評判を調査する。しかし悪評はひとつとしてでてこない…
「もう学校は諦めた方がいいんじゃないか?」
「そうだな…あんまり顔を知られてもまずい。外へ出よう!」


そのころ、当の蔵馬は。
学校帰り、図書館に寄って借りていた本を返したあと、ケンタッキーフライドチキンへとひとり向かっていた。

いらっしゃいませこんばんはー
毎度お馴染カーネル・サンダース像に見守られながら、店内に入る蔵馬。
入り口を掃除している店員は、蔵馬がカウンターで注文する様子をこっそり見つめていた。
「…おい、鈴木。」
店員が小声で呟く。しかし回りに人はいない。あるのはただ一つ…
「何で俺がこんな格好しなければならんのだ。」
「大きな声を出すな、バレるだろ!」
店員が話しかけているのは、他でもないカーネルの立像だった。
お察しの通り…この立像は鈴木の変装だ。そして店員は死々若丸。
「似合ってるぞ、赤いポロシャツ* さぁ怪しまれないように蔵馬の様子を探るんだ!」
「わざわざそんなもんに変装しなくても…」
「尾行は背景にとけ込むことが重要なのさ!ほら 客が来たぞっ」
「ぁ、いらっしゃいませこんばんは〜
結構ノリノリじゃん、死々若…。

コーヒーを注文し、本など読んでいる蔵馬。店に入ってからもう数十分がすぎた。
(誰か待ってるのか?これで女でも来たら大スクープだ)
死々若丸は相変わらず店員の格好で、カウンターの陰から蔵馬をみはっている。
と、急に背後に人の気配を感じた。
「ちょっとあなた、ホールのモップがけやってきてもらえる?」
「は?貴様誰に向かってものを…」
ふりむくと、本物の店員…しかもベテランっぽい…が、モップを持って立っていた。
「見ない顔ね。新人はちゃんと初めて会った人には自分から自己紹介しろって言われたでしょ?」
「ぇ、いや、あの…」
「じゃあモップは私がやってくるから洗い物お願いね。」
弁解する暇もなく、新人店員だと決めつけられてしまった。といっても、訊かれたところで説明できるような事情じゃないが。

そうして少し目を離しているスキに、蔵馬は席を立ち、電話をしていた。かすかに聞こえる声によると、相手の予定が狂って集合時間に遅れたらしい。待ち合わせ場所を変えるようで、電話を切ると荷物を持って店を出ていってしまった。
追わなければ!と、出ていこうと思ったとき…
「すいませーん注文いいですか?」
不機嫌そうな客の声。
なんと行列ができていた。晩飯時のピークが始まったのだ…
「いや、俺は店員じゃ…」
「このセット二つと単品でチキン1ピース。ドリンクはコーラ。あとこのアイスもください。持ち帰りで。」
「ぇっ、ぁっ…」
そこに、モップがけを終えたベテラン先輩も戻ってきた。
「死々若丸さんボケッとしてないで!Sコーラ二つ作って頂戴。」
か、かしこまりましたっ
…こうして、何故か接客に巻き込まれた死々若丸。
あまりの忙しさに蔵馬どころでなくなってしまった。

カーネルに扮していた鈴木は、蔵馬が店を出ていったこと、死々若丸がピークにつかまっていることに気付き、一人ケンタッキーを脱出して尾行を続けた。そして、蔵馬が近くの公園へと入っていったのを見届けた。
夜の公園?!一体なにする気だ…
公園には誰もいない。今度こそ大スクープの予感…。入り口の植えこみに隠れて様子をうかがう。
相手はまだ来ない。様子をうかがうのに夢中の鈴木。ところが…
ガサガサッ
鈴木はいつの間に体の自由が奪われていることに気付いた。植えこみの植物が伸びて巻き付いている。
「あれ?動けな…まさか!」
一瞬にして背筋がこおる。あたりに冷たい妖気が充満する。…蔵馬だ。

鈴木の前に現れたその姿はいつもの南野秀一ではなく、銀髪の妖狐蔵馬だった…。
「俺を尾行するとは愚かだな。」
鋭い眼光で鈴木をにらみつける。
「いや…これは、だな、その〜…」
丁度そこへ、ようやくケンタッキーを抜け出せた死々若丸も運悪く現れてしまった。
「げ…」
「俺を怒らせた罪は重い」
「「!!!」」



「秀兄、お待たせ!」
「秀一。遅いぞ。母さん達が出かけるから 一緒に外で飯を食おうって言ったのはお前だろ?」
蔵馬が待ち合わせしていたのは、弟の秀一だった。蔵馬は何事も無かったかのような様子で迎える。
「ごめんごめん。」
「さ、行こうか。」



再び、場面は幻海邸に戻る。
「はぁ〜。やっと帰ってこれただ〜」
へとへとでそう言うのは陣。凍矢と一緒にようやくゴールした。
「はは…お疲れ。さすが朝二時半集合は伊達じゃなかったよね。」
苦笑の鈴駒。少し前に着いた鈴駒と酎も、この部屋で休んでいた。

「俺たちが最後だと聞いたが…死々若丸たちは?」
「さぁ。俺らよりずっと早く着いたって聞いたぜ?もう寝てんのかな。」
と、部屋のドアが開く。
「彼等なら、元気があり余っている様なので 追加課題を与えました。」
入ってきたのは蔵馬だ。相変わらず微笑を浮かべているがしかしその目は笑っていない。
スペシャルメニューをこなして元気があり余ってる…そんなはずはない。
"何か"あったであろうことは明らかだった。
今 姿が見えない二人が、相当な目に遭わされていることであろうことは四人には容易に推測できた。

「蔵馬…服に血が付いているぞ?」
「え?あぁ大丈夫、返り血ですよ。」
いや、少なくともその血の主は大丈夫じゃなかろうに。
「制服が汚れてしまったね…クリーニング代も上乗せしておこう。」
"上乗せ"とは一体…
そして蔵馬は去っていった。

これから蔵馬が何を行うのかはわからない。ただ、四人は脅え 何も言えなかった。

「鈴木…いったい何したんだ。」
「同情するぞ死々若…」
「また生きて会えるといいけど。」

それから三日間、鈴木と死々若丸は行方不明となる。



このように厳しい環境で修行を積んだ6人。
妖力値と比例して、蔵馬に対する恐怖心も増大していったとかなんとか。

長らくお待たせしちゃってごめんなさい;;そして長い…長すぎるだろ…。
リクはギャグ小説。そう仕上がってるのかどうだか、果てしなく不明です。。と、とりあえずシリアスではないということで(^^;
みどころは鈴木氏の変装っぷりとケンタ若(笑)
あぁ…蔵馬ファンの方ごめんなさい; でもやっぱり、六人衆は蔵馬に頭が上がらないと思うんですよね(笑)

炎舞様、こんな駄文ですがよろしければお受け取り下さいませ(_ _)"
どうもありがとうございました!