寒い寒いと思ったら、それもそのはず、夜半にしんしんと雪が降り積もっていた。布団から顔を出してうっすら開けた目に、朝の光がいつも以上にまぶしく飛び込む。
「死々若〜雪だぞ!」
鈴木が呼びに来るがシカトを決め込む。
寒い。動きたくない。が。
「いつまで寝てるだーー!!」
「?!」
陣が部屋に押し入り、無理矢理布団をひっぺがす。

「貴様ぁ…寒いだろ!!」
「子供は風の子冬でも元気、だ!」
「俺は子供でも風の子でもない。」
愚痴りながらしぶしぶ起き上がる。
今ここの家には、雪に誘われて陣、凍矢、酎、鈴駒…つまり全員集合していた。
「なんで貴様らは何かあるたびにうちに集まるんだ。」
「呼んでも死々若は面倒がって来ないからだろ!」
鈴駒が突っ込む。
「ここ広いしな。ってなわけで、遊ぶべ!!」
イェーイと、みんな陣に続いて庭にとび出す。


「っかぁ〜うめぇ!ゥィック」
雪を見ながら飲む酒はまた格別…というのは酎だ。結局やってることはいつもと変わりない。
「朝っぱらから人ん家で飲むなと言ってるだろうが…」
あきれる死々若丸。
「かたいこと言うなって。雪見酒ってやつだ。お前も飲むか?」
「いらん。ったく、皆元気だな…」
陣と鈴駒は喜び庭を駆け回っている。若はこたつで丸くなる…
「折角だ、篭ってないでお前も参加しろよ。」
声をかけるのは酎と縁側で庭を見守る凍矢だ。…雪見酒には付き合っていないが。
「朝飯食ったらな。」
そう言って台所に消えた死々若丸。鈴木が作っておいたおにぎりを持ってきて縁側に座った。

「寒いな…」
白い息を吐きながら死々若丸が言う。
「俺はそうでもないけどな。」
「あ…。そうか。」
呪氷使いである凍矢は、当たり前だが寒いのには強いのだ。
「じゃあ雪降ると嬉しいか?」
「まぁな。…あいつらみたいにはしゃぎはしないが。」
と、目線で陣と鈴駒をさす。二人は雪だるまを作ろうとしていたのだがどちらの玉を胴体にするかで争いになり、より大きくしようと必死に転がしているところだった。走行を妨害したり相手の玉を破壊したりどんどんヒートアップする二人。
「なにをやっとるんだ、あいつらは。」
思わず笑いがもれる。
「ところで…鈴木は?」
死々若丸が訊く。そういえば見当たらない。
凍矢が示したのはもっと裏の広いところ。おにぎりも食い終わったところで行ってみると…そこには雪がかき集められて高い山が生まれていた。

「おっ死々若、来たか。」
「鈴木…なに作る気だ?」
「かまくらだよ!」
かまくら…それは雪を山と積んで中身をくりぬいて作る雪の家である。
しかしそれにしては鈴木が作った雪山はでかすぎる。高さは10m近くありそうだ。
「名付けて"スーパースノービルディングインヨーロップ鈴木スペシャルボンバイエ"だ!」
「闘魂?!」
どうやら外見を中世ヨーロッパの城のような感じに形作るつもりらしい。
「面白そうだな、俺も手伝うぜ」
「オレもやる〜!」

次々とかまくら製作に加わる仲間達。それをみて死々若丸が
「よし、完成したらうどんでも作ってやろう。」
自分は手伝う気はないが、頑張っている皆をねぎらってやろうと思ったのだ。それを聞いて普通なら喜ぶところ。しかし皆の反応は…
「え…」
「料理?」
どよめきが起こる。
「あの死々若が…」
「自分から料理を?」
苦楽を供にしてきた仲間でも…いや、だからこそ、死々若丸が料理する姿は想像がつかなかった。
「何だ貴様ら、その顔は。」
死々若丸は不満な顔をする。それをみて慌てて鈴木がフォロー。
「あ、あのだな、死々若だってたまには料理するんだぞ。…滅多にしないけど。」
「そ、そうなのか?」
「チャーハンとかお茶漬けとか得意なんだぞ!」
「早帰りの学生の昼ごはんかよ…」
フォロー失敗。
「要らんならいい。鈴駒、あっちで何かしよう。」
くるっと回って変身すると鈴駒の頭の上に着地。
このまま放っておくとすねてしまうし、特にかまくらに興味もなかったので鈴駒はちっちゃい死々若丸をのせて雪遊びを再会することにした。

なんだかんだいって雪を喜んでいる姿は普段のクールな死々若丸からは想像がつかないが、魔界では滅多に雪は降らないので当然の反応かもしれない。なによりこの子鬼スタイルならはしゃいだところで何ら違和感はない。

「死々若、なにしてんの?」
雪のない陰でなにやらしているのを不思議に思って鈴駒が声をかける。死々若丸は葉っぱや木の実を持って出てきた。
あらかじめ作っておいた楕円のドームにそれらを刺しこむ。
「雪うさぎ。」
「あ〜可愛い!」

と、視界の隅に巨大な雪だまと酎が飛込んできた。
「何だ?」
そこへ雪玉を投げた主―鈴木と 陣、凍矢が続いてやってきた。
「かまくらはどうしたんだ?」
「酎の頭突きで崩れた。」
「で鈴木が制裁を加えてるだ。」
あきれ顔の4人。
「そうだ!ついでだから雪合戦しようよ!」
「雪合戦?」

鈴駒の提案に制裁は中断、全員集合。
グーとチョキによるチーム分けを行った結果、死々若丸・凍矢・酎のチームと鈴木・陣・鈴駒のチームができあがった。
「おっ、そっちは青チームだな。」
「髪が…か?」
「ならオレ達は赤だな!」
「なにをう、黄色だ!」
「どっちでもいいよも〜っ」

こうして、ルール無用 時間無制限、最後の一人になるまで戦うサバイバル雪合戦の火蓋が切って落とされた。
「サバイバルかよ!」
「チーム戦じゃないのか?」

「いいか、これはただの雪合戦じゃない。真剣勝負だ。」
「望むところだ!」
死々若丸も元の姿になり
「さぁだれだ?最初に死ぬのは。」
「負っけねぇぞ!」
開始の合図と共に激しく飛び交う雪玉。皆 幻海による地獄の特訓で投擲能力・反射神経 共に鍛えられている。普通に投げていたのでは勝負がつかない…となると小細工の勝負。

始めに小技を仕掛けたのは鈴駒だった。
「そぉ〜れっ」
一度に4個の雪玉を投げる鈴駒。青チームの三人は簡単にそれを避けてしまう。
「数うちゃ当たるってもんじゃねえぜ!」
「それはどうかな〜」
「何っ?」
ぱこんッ!ばこっぼこぼこっ!!
避けたはずの雪玉が軌道修正して全て酎にヒット。油断していた酎は気を失ってしまった。
「まずは一人♪」
「お前ソレ、中に魔妖妖仕込んだだろ!」
「ルール無用だ…責められん。」
「そゆこと。さ、次で決めちゃうよっ」
今度は両手に妖妖 入りの雪玉を持つ。合計8個だ。
「避けれるかなっ?」
「フン、こんなもの!」
と、剣を構えた死々若丸。鈴駒から投げられた玉をたちどころにみじん切りにしてしまった。
「あぁ〜っオイラのヨーヨー!」
「ナイスだ死々若!」

その間に雪玉をためておいた赤チーム。いや、黄色。とにかく陣と鈴木。は、次々と攻撃を仕掛けてくる。青チームは防ぐので精一杯だ。ようやく投げられた雪玉もすべて陣の風の壁によって弾かれてしまう。
「風が厄介だな…あっちは人数も多いし。」
「よし、防御強化だ。」
死々若丸はそう言うと、魔哭鳴斬剣の妖力を解放した。ぶん と振ると死霊が飛び出す。
次々と飛んでくる雪玉に死霊が襲いかかって相殺する。
「ルール無用だろう?」
これで防御は互角となった。
なお続く雪玉の押収。両チーム決め手に欠けていてなかなか決着がつかない。


「らちがあかんな…」
いつの間にか昼を過ぎ太陽は少しずつ沈みだす。いいかげんに疲労も目立ってきた。
「なぁ、勝った方は何か賞品が出るっていうのはどうだ?」
「賛成!どうせやるならそういうのがないとね。」
「それじゃあ勝ったチームの面々には私の最新作のサンプルをやろう!」
バコッ
鈴木の提案に敵味方なく強烈な雪玉がとんできた。
「それじゃぁ罰ゲームだろ!!」
鈴木、ノックダウン。これで2対2となった。
「なんか食い物がいいだな〜」
「あったかいやつね!」
攻撃を続けながら賞品の相談を続ける。と、凍矢が呟いた。
スキヤキ…
小さい声だったが、誰もが聞き逃さなかった。この氷点下に囲まれた中で、鍋で踊る肉、白滝、白菜、豆腐…を想像してしまったら、もう頭から離れるはずがない。
「よし、けってー!」
誰の意見も介さずに陣が叫ぶ。心はみんな同じだ。

というわけで負けたチームはスキヤキの材料費を負担することに。
賞品が決まれば益々やる気がわく。4人は敗者に豪華食材をねだってやろうと燃え出した。しかしたまった疲労の存在感は消えない。陣と死々若丸は防御にずっと妖気を使いっぱなしだし、攻撃を主にする凍矢と鈴駒にも限界が近づいていた。
「もう一度確認するが…この雪合戦は何をやってもいいんだよな?」
息をきらしながら、なにやら改まって確認する凍矢。
「あ、あぁ。」
暗黙の了解で攻撃自体はちゃんと雪でしているが、投げ方や防御に関してはさっきから本当になんでもありだ。
何かしでかす気だ…陣と鈴駒は緊張して身構える。

小さな雪玉をいくつも手に取る凍矢。そして
「くらえ、魔笛霰弾射!」
「っ?!」
雪合戦バージョン。妖力を込め強化した雪玉を二人めがけて飛ばす。その物凄いスピードに、避けることもできない。
体の小さい鈴駒はKO。陣もモロにくらったが、諦めようとはしない。
「のォ…まだまだ…」
立ち上がり、反撃しようと雪を握る。
「…あれ?」
投げようと踏ん張ろうとしたが足が動かない。
見ると足元には厚い氷。それが脚から徐々に全身を氷付けにしていく。
「とーや!こうまでして勝ちたいだか!」
叫びもむなしく完全に身動きが取れなくなった陣。
「勝負の世界は厳しいんだよ。」
そんなにスキヤキが食べたかったのか…と思ったが、死々若丸は突っ込まずにおいた。

なにはともあれ赤(黄)チーム、全員戦闘不能と見なし、青チームの勝利!

死々若丸と凍矢以外の四人は共同出費してスキヤキをおごらなければならない。
まだ気絶している面々を部屋に運びこみ、財布を失敬して買い物へ。
ここから街までは数時間かかる。山を下り買い物を済ませる頃にはすっかり日は落ちていた。月明かりが雪を照らし何とも美しい。そんな風景を楽しみながら二人はまた山を登った。


ようやく家の前までたどり着くが、何か異変を感じる。
おかしい、妙に静かだ。外灯もついておらず とても中に人が四人いるとは思えない。
「ただいま」
"お帰り"という声はない。
台所に荷物を運ぶのに手間取っていると、鈴木がふらふらとやってきた。
「お、いたのか。どうした?」
「……頭いたい。」
「へ?」
風邪ひいた…」
「え゛。」
居間へ行くと、他の敗者3人もそれぞれ咳き込んだり、だるそうにこたつにもぐっていた。雪の中やるかやられるかの激しい戦いを延々と繰り広げていたのなら当然の結果かもしれない。
「お前が氷漬けになんかするからだぞ。」
死々若丸に言われ、凍矢は笑うしかなかった。乾いた笑いに冷や汗。
「はしゃぎすぎたな…。」

「どうする?コレ。」
「……とりあえずスキヤキ食うか。」
現実逃避というのだろうか。風邪でダウンした仲間達はそれとして、とりあえずいただくもんはいただく。
人の金だと思っていい食材ばかり揃えたし。せたかくだものとりあえずは食っておかないと。
「あ〜、うま。」
「うどん入れようぜうどん。」
ああ、これを食べ終えてしまったら看病に追われる日々…


春よ、来い。


お待たせ致しました!これ書いてる頃私以外の家族が全員風邪ひいてマジビビりました(^^;
なんだかほのぼの…だと思われますハイ。人間界を楽しんでる感じが出てればいいな〜なんちゃって…
のんさんも風邪にはお気を付け下さい!どうもありがとうございました☆