第一回魔界統一トーナメント終了後、6人衆は人間界の幻海の元へ戻っていた。

「結局幽助とは戦えなかっただな〜。」
6人が集合した部屋で、頬杖にため息をつきながら陣が言う。
「仕方ないさ、運も実力のうち。だが三年後は本戦で勝ち残ってやる!」
そう返すのは凍矢だ。
敗北後も大会を最後まで見守り、すさまじい試合の数々を目前にしてきた六人。それに触発されないはずがない。
次の大会に向けて、もっと強くなりたいという意欲に満ちていた。

「俺も棗さんのために頑張るぜ!」
「動機が不純なんだよ酎は。」
「お前も人のこと言えないだろ!」
とそこへ、幻海が蔵馬をつれてやってきた。
「なんだい、騒がしいね。」
「ばーさん!…いや、幻海師範。」
急に改まる六人。
「お願いだ、俺たちにまた修行をつけてくれ!」
全員真剣な面持ちだ。
が、

「フン、年寄りにいつまでも甘えてるんじゃないよ、強くなりたかったら自分らで努力しな。」
…一蹴。

幻海はそのまま部屋を去り、一同が唖然とする中やがて鈴木が口を開いた。
「まぁ…あの地獄をもう一度見るよりはいいか。」
「な に が 地獄だって?」
途端にあたりの空気が凍りつく。
(こーゆーのがだよ!!)
…などとは誰も言えるはずがなく。
相変わらず蔵馬に頭が上がらない六人であった。

鈴木は一瞬死を覚悟したが、緊張はすぐにとかれた。
「全く…。修行は結構ですがたまには息抜きしたらどうです?お客さんも来ていることだし。」
「客?」
その言葉に反応して、全員の視線が蔵馬の更に後ろへ向く。

「じゃじゃ〜ん!差し入れ持ってきたよ♪」

ぼたん、螢子、雪菜の女の子三人組だ。
「いや〜お疲れ様!みんな頑張ってたねぇ、コエンマ様と応援してたんだよ!」
「ねぇねぇ、幽助どうだった?」
「皆さん、ご無事でなによりです」
三人それぞれ来た途端によく喋る。ついさっきまで真面目だった雰囲気はさっぱりかき消されてしまった。

「なんだ、野次馬娘達か。」
気合いが抜けた酎が姿勢をくずしながら溜め息をつく。
「なんだとは何よー。はい、飲み物もあるからグラス持ってきて。氷も入れてよ。お酒は駄目だからね。」
「ぇ、ぁ、」
「早くする!!」
勢いに押されて台所に走る酎。
場はすっっかり女の子のペースだ。


「その後の魔界の様子はどうですか?」
(男性陣にやらせた)食べ物の準備が落ち着いて、雪菜がきりだす。
「チャンピオンの煙鬼がいい感じで治めてるみたいだ。結界がなくても大きな事件は起こってないだろ?」
皆うんうんとうなづく。

「うちの学校でちょっと事件があったんだけど、解決するために妖怪に協力してもらったって蔵馬さんが。」
「あぁ…あの時ですね。」
螢子の学校で起きた事件…部活内のトラブルで、ある部員に対して妖怪の仕業に見せかけた嫌がらせが発生していた。螢子に相談された幽助は蔵馬と犯人をみつけ、本物の妖怪に会わせてお灸をすえたのだ。
「あれ、螢子さんの学校って女子高でしたよね?」
「そう!だから幽助を女装させて調査させたの。これがまた似合ってなくてさ〜。」
「マジでか!うっわぁ〜見たかっただ」

と皆が笑う中、何だか冷たい空気を発しているのが一人…
「蔵馬くーん、なんか怖いけどどしたの?」
「べ つ に 。」
…何か嫌なことがあったのを思い出したらしい。

「実は写真もあるんだけど見る?」
「見まーす!」
鞄から一枚の写真を取り出し、披露する螢子。
「ぷっ…」
「これが浦飯ぃ?!似合わねぇー!」
「よくこれで潜入できたもんだ…」
「絶っ対ぇ無理があんべ!」
一同、爆笑。
「変装のなんたるかをちっとも理解していないなこいつは。」
と言うのは鈴木。さすが変装の達人、厳しいダメ出しだ。

「そ〜だ!」
ぼたんがなにやらを閃き、螢子と雪菜に耳打ちする。3人はうなづき合い、突如

ねえ、暇だし誰か女装しない?

「?!」
六人が一斉に固まった。
「息抜きだと思ってさ。」
「阿呆か!生憎お前らほど暇じゃないんだ。」
「いいじゃないですか、やりなさい。」
「そーだそーだ…ってえぇっ!?」
反対の声に挟まってとんでもないことを言うのは、先ほどにもましてなんだかトゲトゲしいオーラをかもしている蔵馬だ。

「はい、けってー!」
「ちょ待っ…」
「ほら最近女装すると賞金もらえる番組とかあるし。」(←○っていい○も)
「そうそう。さ、誰だ?とびきり美人に仕上げてやるぞ!」
「鈴木先生頼もし〜い」
変装大好き鈴木さんは女性陣に混ざってやる気満満だ。

お前、あとで半殺しな☆
五人の笑顔がそう語っていた。

「誰が一番やり易いかしら…」
「とりあえず酎は没ね。」
「鈴駒ちゃんは対象年齢外かしら。」
「って、本当に番組に応募する気?」
「陣さんは背が高すぎますかね…」
「死々若は髪長いからいじりやすいぞ。」
「ちび若くーん、ちょっと元のサイズに戻ってみて?」
「(鈴駒の頭の上でそっぽを向く)」
「……駄目か。」

「となるとやっぱり…」
一同の視線が一人に注がれる。
凍矢!お前にけってー☆」
「な゛」
背もさほど高くなく、細くて白い肢体の凍矢が見事女装の犠牲者に大抜擢!

「誰がそんなこと…」
本気で抵抗して暴れようと思ったが、蔵馬と目が合ってしまった。
「俺は用事があるんで帰りますけど、写真撮って見せてくださいね。」
にっこり。その笑顔が怖い。

「はいはい今日だけくのいちだよ凍矢く〜ん」
「いゃだあぁぁ」
あわれぼたん、螢子、雪菜と鈴木の4人がかりで隣室に引きずり込まれる凍矢。
被害を免れた面々は閉ざされたふすまに合掌した。


数十分後……


ふすまが少し開き、隙間から女の子3人衆が出てきた。
「なんだ、終わったのか?」
すっかりお菓子パーティーで和んでいた4人はなんだかもうどうでもよさそうだ。
「ちょっと、すごいわよ鈴木さん!」
「さすがプロって感じでした…。」
プロ?
「今最後の仕上げをやってるからさぁ、あんたたちも楽しみにしてなさいって!」
どうやら鈴木が相当ノリノリで凍矢を女の子に仕立てているらしい。

パッ

急にあたりが真っ暗になった。
「なんだ、停電?」
「阿呆か、まだ昼だぞ。」
と、拡声器を使っているのかやたらと響く声。
『皆の衆、大変長らくお待たせした!』
「あ、阿呆の声。」
『我らが凍矢君が今日だけ凍子ちゃんだ!この鈴木が腕によりをかけたメイクを見るがいい!』
いつの間にセットしたのかカラフルな照明が隣の部屋つながるふすまを照らしている。

しーん…。
さすがの演出過剰にみんな呆れている。
『おいコラ、拍手ぐらいしろ!』
パラ パラ パラ…

『それでは、どうぞー☆』
どこからか聞こえるドラの音と、ドライアイスと一緒にふすまが開けられた。
ドライアイスが晴れてくると、凍矢の姿が現れた。


…全員が我が目を疑った。

そこにいたのは紛れも無く、ここ数ヶ月ずっと一緒にすごしてきた仲間の凍矢なのだが…
可愛い。

普段はオールバックにされている水色の細い髪は下ろされて、ヘアピンなんかできちんと留めてある。
元から細い体には女性用の衣装がよく似合い、リボンもスカートもなんら違和感が無い。
化粧を施されたその顔は、普段は氷のような視線を放つ切れ長の瞳に艶っぽい魔性の輝きをもたせていた。

ドライアイスが止むころ、凍矢の後ろから鈴木が参上した。
「皆びっくりして声も上げられないようだな!」
すっごい自慢気。

「すごーい、鈴木さん!」
「見とれちゃったわよう。今度私にもそのテクニックを教えてちょうだいな♪」
「凍矢さん、可愛いですぅ。」
はしゃぐ女性陣。
「お前たちもどうだ、感想を述べてみよ。」
唖然としてる4人。
「いや…すげぇ…。」
「凍矢、可愛いだ〜!」
「はっはっは、そうだろそうだろ*」

「技術はすごいんだ、活用方法がおかしいが。」
げんなりしてるのは死々若丸だ。…どうやらすでにいろいろ鈴木にやらされた経験があるらしい。

「凍子ちゃん、どうだ?今の気分は。」
と、マイクを向ける。
それを受けた凍矢は拡声器を手に取り、スピーカーを鈴木の耳に当てて思いっきり叫んだ。
「お前の趣味に俺を巻き込むな!!!」

鈴木さん、死亡。


「さっ凍子ちゃん、写真撮りに行きましょう♪」
「へ」
「蔵馬さんと約束したでしょ。」
「せっかくなんだからそのままお買い物行きましょ!んでプリクラ撮るのよプリクラ!」
「ちょっ……」
あぁ、やっぱり逆らえない凍子ちゃん。

結局この日は遅くまで女装のまま女の子3人に連れまわされましたとさ。


「鈴木…コロス!」
やつあたり。



さて、それから…
「お邪魔しまーっす!」
「鈴駒ちゃん、今日デパートの屋上でハイパーヨーヨー大会やってるの、行きましょ!」
「え…いいよオイラ普通の人間と対決しても仕方ないし…」
「そういわずに!さ!」

「…今日の被害者は鈴駒か。」
「ヨーヨー大会ならまだましなほうだろ、得意分野だし。」
鈴駒を連れ去る女の子3人を見てげんなりしている一同。

女装の一件から始まってすっかり女の子のおもちゃにされてしまった6人衆。蔵馬の無言の脅しもあって断れない。

「修行…。」
「する暇ねぇな。」
全員が同時に大きなため息をついた。
次の大会まであと3年。めげずに頑張れ六人衆!


お待たせ致しました!これ書いてる頃私以外の家族が全員風邪ひいてマジビビりました(^^;
なんだかほのぼの…だと思われますハイ。人間界を楽しんでる感じが出てればいいな〜なんちゃって…
のんさんも風邪にはお気を付け下さい!どうもありがとうございました☆