突然ですが、俺たちはとてもいい感じ。
一緒にすごして何十年もたつ二人だけど、その関係はいまやただの仲間では、ましてや友達なんかでもない。
なんというか、
死々若は不器用だけど俺には少し笑ってくれる。
その体に触れたところで、死々若は俺を拒まない。
俺たちの言動は、誰がどうみても好き合っているんだと思うことばかり。
……だと…思う。

そう、俺は死々若のことが好きだ。それは絶対間違いない。
そして死々若も俺のことが好きだ…と…思うんだけど…

言い切れないのはちょっぴりだけ不安だから。

なぜなら、死々若は俺のこと「好きだ」と言ってくれたことが無いのだ。
口にしなくても態度からその気持ちはわかってる、わかってるんだけどさ…

やっぱり一度でいいから確実に言ってほしい。
死々若のその口で、きちんと「好きだ」と言ってもらえたらもっと自信を持って抱きしめられるのに。





ある晩。
縁側にひとり座って空を眺めている死々若丸。今晩は月が明るく丸くてとても綺麗なのだ。
「なに見てんの?」
マイペースを崩さない死々若丸は、質問の声の主がいる後ろのほうを見向きもしないで答えた。
「つき。」
晩飯の片付けを終えてやってきたその人…鈴木は、この端麗な同居人との微妙な関係にやきもきしている張本人。
「ふ〜ん。…本当綺麗だな。満月かな?」
鈴木は言いながら腰を下ろし、さり気なく死々若丸に寄り添った。
「まだ少し欠けてる。満月まであと2日といったところか。」
「そっか。」
死々若丸は自分にかかる体重を気にする様子も無い。
それはまるで はたから見たら"ラヴい"としか形容しようの無い様だ。
これだから心配ないと鈴木は思うのだが‥
「な、死々若…」
「ん?」
機嫌はよさそうなので思いきって訊いてみた。

「俺のこと好き?」

「な!?」

途端に死々若丸の顔は激しく紅潮した。

「なに馬鹿なこと言ってる、貴様!」
「馬鹿なこと?俺は大真面目だぞ。」
「そうじゃなくて…そんなこと訊くか普通!?」
鈴木の腕を振りほどいて脱出する死々若丸。
「だって〜死々若言ってくれないんだもん。」
「言わすなそんなこと!!」
最後のは一番大きな声だった。


「…それはつまり…そうだと思っていいんだよな?」
「…………もしそうだったらどうするんだ」
お姫様抱っこで寝室に連れこみます(大真面目)」
「〜〜阿呆ッ!!!!」
子鬼に変身して自室のほうへ走って逃げる死々若丸。が、1メートルほどで転んだ。
動揺している。
(可愛い…。)

やっぱり大丈夫、と確信は持てたものの、それでも一度でいいから言わせてみたい
野望が募る鈴木であった。



数日後、陣と凍矢が二人の住居に訪ねてきた。
「4人で?」
「そう。」
「海?」
「だ!」
じゃじゃーん☆
陣が持ってきたのはペア宿泊券2枚。
「いやぁ、昨日 商店街の福引で…」
買い物をし、福引券を手に入れた陣。さっそく挑戦してみるとなんと一発目から大当たり!さらに2回目も大当たり!
…券はもう3枚あったのだが福引の係員に泣く泣くお願いされて福引はせずに残念賞のティッシュをもらったらしい。
「というわけでペアチケットが2枚。よかったら4人で行かないか?」
「いったいどういう強運なんだお前…。」
「日ごろの行いの賜物だがや!」

……というわけで陣・凍矢・死々若丸・鈴木の4人で海に行くことになりました。





当日
青い空!白い雲!!輝く太陽!!!
どこまでも澄んだ広大な海の光景に、4人も血沸き肉踊る…
かと思いきや。

なにもない。

海水浴シーズンには少し早すぎたか。いやそれだけの理由ではない。
たどりついたのはなんだかやたらと岩場の多い、崖に囲まれて狭く、最寄のコンビニまで車で1時間半といったような…
つまり、秘境過ぎて田舎。穴場すぎて誰もいない。そんなような閑散とした海水浴場なのである。
「さっすが商店街の福引の景品だな…」
「ま、期待してなかったけどな。」
そんな海だがそれほどのショックは無かった。これでも幻海の土地と比べたら都会的なほうだったりする。
仮にも自分たちは妖怪であるのだからあまり人間であふれている場所にいたらなにかトラブルが発生するかもしれないし。

「ここなら思う存分遊べるべ!」
上着を脱ぎ捨て水着姿になった陣が真っ先に飛び出していく。
やれやれといいつつ荷物を置いた凍矢も海に浸かる。
鈴木は海辺の生態調査に精を出し、死々若丸は荷物番をした。

「修羅旋風大津波〜〜!」
「だぁっ馬鹿…」
さぶーーん
「っのぉ…ならこっちは」
パキパキ…
「海凍らすなよ、凍矢!」
「はは…」

「死々若、ほら見てイソギンチャクーー!!!」
「キモい!」

なんだかんだいって大はしゃぎ。

お昼になってちょっと休憩。鈴木特製弁当を食べる4人。
「死々若丸も泳いだらどうだ?」
午前中はずっとパラソルの下にいた死々若丸に凍矢が気を使う。
「いや‥俺はいい。」
「荷物なら盗ってくよーな奴この辺にいないべよ〜。」
「…カニとかが」
「それはないよ、若ちゃん。」
鈴木 突っ込む。
「まさか死々若、泳げないだか?」
陣、0.5秒後グーで殴られて海の中へ。

「死々若、これ使うか?」
鈴木がバッグから取り出したのは大きいドーナツ…ではなくて、小さいサイズの浮き輪。
「…貴様、俺にこんなものを使わせる気か?」
「ちびっ子ならいーじゃん。」
一瞬角が出て鈴木に殴りかかろうとするが、受け流されてちびっ子に変身。浮き輪をはめられる。
「似合うって。かわいーv」
「…ふん。」

そして午後。
「死々若ーv ほら見てヒトデつかまえた〜」
結局その浮き輪で浅瀬をのんびり浮かんでいる死々若丸。そこに鈴木が近づいてくるのだが
「あぁ鈴木、気をつけろその辺には…」
「え?」
ビリビリビリ!!!
「…電気クラゲがいるから。遅かったか。」
「ぎゃふん…。」


砂浜で城作りを始めた死々若丸。休んでいた凍矢も参戦する。
「凍矢、体大丈夫か?」
「あぁ。暑いのは苦手なんでちょっと疲れただけだ。」
二人で黙々と砂をかき集める。ちなみにそのころ鈴木と陣はワカメを探しにもぐっていた。
「…凍矢……」
「?…なんだ。」

「お前は陣に好きだって言ったことあるか?」

「!?」
あまりに唐突な質問に思わずつんだ砂の山を崩してしまう凍矢。
「その…鈴木が。言ってほし い みたい…で。」
照れ照れと戸惑いながら続ける姿を見て凍矢はふっと笑う
「な、なにが可笑しい!」
「いやスマン。なんだか微笑ましいと思ってな‥」
「微笑ましいだと?」
表情をしかめる死々若丸。凍矢はニヤと笑って
「実はこないだ鈴木にも同じこと言われたよ。」
「鈴木が?」
「あいつは周りとの調和を大切にするから強く言わないけど、本当はその言葉がすごく聞きたくて仕方ないんだよ。」
確かに…自分を大切にしてくれる鈴木。いつもわがままばかり言って気づかなかったけど‥本当は鈴木もわがままを通したいのかもしれない。
「1回くらい言ってやったらどうだ?口にして伝えるって意味はかなり大きいと思うぞ」
死々若丸は 考えておく。とだけ言ってまた砂を積み始めた。


宿泊先の旅館に行ったら早めに風呂に入って浴衣姿に。
いつまでもやっぱり鈴木は通常通りだった。"あの言葉"を言ってほしいと、本当は強く思っていてたまらないなんてそぶりは全く見せ無かった。
(わからん…こいつの本心だけは永遠にわからん。)
演技派の鈴木に若様 感服。

言いたい気持ちが無いわけじゃないんだ。
今もこの鈴木の隠された優しい気遣いに胸がきゅーっとなっている。この想いはまさに、鈴木が好きだと言う証拠。
だけど言えないのは…怖いからかもしれない。
好きだの愛してるだの、自分には到底似合わない、世界の真裏にある言葉だと思って生きてきた。
その言葉を言ってしまったら、この感情を認めてしまったら、なんだか自分が自分じゃなくなってしまいそうで。


「…死々若?」

「へっ?」
ふと我に返ると目の前には晩飯。向かいには鈴木。
あんまり考え込みすぎてすっかり箸が止まっていたようだ。
「どうした。ホラ刺身嫌いじゃないだろう?」
「あ、あぁ。もちろん好……」
ハッとなって思わず言葉が止まってしまった。

"好き"

つい意識してしまった。今は晩飯の刺身の話をしているというのにあまりにも不自然。
おかげで何を考えていたのか鈴木には丸わかりだ。
「や、あの、別に…ただちょっと疲れたからボーっとしてただけで…」
言い訳は通じない。
「死々若」
鈴木は死々若丸の頭にぽんと手をやった。
「別に気にしなくていいんだって。お前がそんな言葉連呼するような奴じゃないってわかってるから。」

……ったく、お前はいったいどこまで優しいんだ。
そんなお前が 俺は…


「ちぃーっす、お邪魔するだー!」
と、ちょうどそこに飛び込んできたのは陣と凍矢。(二人は隣の部屋に宿泊している)
凍矢の手には大量の花火。ここに来る前に用意しておいたらしい。
「晩飯食い終わったらやらないか?」
「おー、いいねぇ!よし死々若、早いとこ食っちまおうぜ。」
「あ、あぁ。」


そして4人、旅館を抜け出して夜の浜辺へ。
狭い岸壁に色とりどりの火が弾ける。

「いくぞ必殺(?)虹色花火ー!!うわはっはっはー」
「危ッ!」
その名もズバリ色違いの花火を7本いっぺんに持って虹色の火を放つ見目麗しい技。
「阿呆め…」
よい子は絶対に真似しないでください☆

「鈴木、花火とってくれ。」
「あいよ」
すっかり鍋奉行ならぬ花火奉行になっている鈴木そう言われて凍矢に渡したのは線香花火。
「お前‥線香花火はラストがお約束だろう?」
「断る!そんな地味なもの俺の性には合わんのでな。ラストは…これだ!」
と取り出したのは打ち上げ花火。
「ドカンと派手に一発、可憐な華を咲かせて有終の美としようではないか!危ないからお前らは離れて、そっちでしんみり線香花火でもやってなさい。」
ここに来れるようになったのも花火を買ってきたのも陣たちなのに、全く言いたい放題だと呆れる。
ま、鈴木の破茶滅茶な性格はわかっていたことだし、それもまたありかと思って従うことにした。


打ち上げ花火をセットする鈴木。
「鈴木…」
「なんだ、死々若?もっと下がらないと危ないぞ。」
そういいながら導火線に火をつける。

ジジジ…
「いいか、一回しか言わないからよく聞けよ。」
「え?」

ひゅるるる…
「俺は…お前のこと…」

ドン

パラパラパラ…








「…………今なんと?」
「もう言わん」

花火が上がるのと同時に死々若丸が発した言葉。
大きな音にかき消されたその言葉は、約束していたあの台詞。

「ちゃんと言ったからな!これでいいだろう?」

鈴木の耳には届かなかったが、死々若丸は言ったのだ。
初めて口に出して、鈴木のことを「好き」と。


「死々若…」
「なんだ。文句あるか。」

「〜〜死々若ぁぁーーーっ!!!」

感動のあまり駆け出して飛びつく。勢いあまって倒れこんでも砂まみれになっても気にしない。
「馬鹿、よせっ!」
「俺も好き。死々若のこと好き。愛してる。」
「連呼するな、馬鹿!」
しかし鈴木はしっかりと抱いた体を離さない。
(やっぱり、言わなきゃよかったかな…。)

抱きしめるその腕が少し震えていることに気がついた。

「…鈴木?」
「嬉しい…」
「え?」
「嬉しい。」

それきり鈴木は何も言わなかった。死々若丸も抵抗するのをやめた。




翌日は朝早くにチェックアウトだった。
「さすが商店街の福引だな…寝足りない。。」
大きなあくびをしながらやってくる鈴木、と隣には死々若丸。
先にロビーに来ていた凍矢は意味ありげな視線を二人に送る。
そうだった、打ち上げ花火のときこいつらもいたんだった…。
イェイと笑い返す鈴木。羞恥心で顔を背ける死々若丸。
(やれやれ、大丈夫そうだな。)
こうして、陣と凍矢にはお手数おかけしましたが、二人にとっては忘れられない…大切な旅行になりました。






あれ以来、死々若のつれない態度は激しくなりました。
少しからむとすぐ殴るし…
俺たちの言動は、誰がどうみても好き合っているとは思えないかもしれない。

でもわかってるんだ、照れてるだけだって。


俺たちは、とてもいい感じ。

甘め、とのリクエストであれよあれよとこんな話に‥。青臭いなぁ、見てるこっちが恥ずかしいっつーの!
鈴木さんの一方通行っぽい(けど実はそうじゃない)愛ってのが鈴若の醍醐味ですよね…(なんのこっちゃ)
そしていつもいつもとうやんがキューピッド(滅)ですみません;
あぁ〜もうなんだかよくわからないまとめに(汗)こんなでよければお受け取りくださいませ!ありがとうございました!