このようなことになった経緯は、説明すれば長くなる。


そもそも故・幻海師範はゲームが好きな人で、そのお屋敷にはゲームセンターかと思わせるようなアーケードゲームの部屋があり、TVゲームも各種ふんだんに取り揃えてある。
修行の日々の息抜きに、と、その遺産でゲーム大会を開催した六人衆。
あまりにも熱中して しまいには、優勝者は最下位の者に何でもいうことをきかせられるという副賞まで発生した。

それで、最下位になったのが鈴木。
パズルゲームやRPGだったらまた違ったのだろうが、題材になったのが1vs1の格闘ゲーム。この類のものはどうにも得意でないようで、負けに負けまくり文句なしのダントツ最下位に落ち込んでしまった。
とっとと奴隷陥落に決定した鈴木を見て張り切ったのは酎である。
最下位のものは優勝者のいうことを何でもきかなければならない。

つまり、鈴木のことを好きなように扱うことができる!


頂上決戦は熾烈を極め、最終対決の頃には皆グロッキーになっていた。(よいこの皆は長時間ゲームをするときは休憩をはさもうね☆)
そんなハードな戦いを、見事愛の力(?!)で勝ち取った酎!

そして王者が敗者に下した命令が、「一緒に街へ一日付き合うこと」。



と、このような訳で、いい年したガタイのいい男が二人並んで街を闊歩しているのである。




「で、なんだ。また酒か?」
「は?」
突然の発言に戸惑う酎。
「買い物に来たんだろ?どうせまた酒でも買い込んで、俺に荷物持ちさせるつもりなんだろうが。」
「ち、違っ…」
じゃぁなんなんだ。と首をかしげる鈴木。

(こいつ…マジかよ。)
酎としては、デートのつもりなのである。
普段から微妙にアピールしているものの、コイツはマジかボケかまったく気づいていやがらない。
そうこうしているうちに死々若丸に妨害されるのがいつもなのである。
だから「敗者の罰ゲーム」という大義名分を掲げて堂々と二人きりでお出かけできる今日は絶好のチャンスなのである。
なのに肝心の鈴木ときたら…
「まさかおごらせるつもりか?!」
(…色気ねー。)
思わず深いため息。

戦闘に関しては天才的な洞察力を持つコイツが、恋愛に関してだけこんなに鈍いなんてことあるのか?
もしも全てわかった上でとぼけられているのだとしたら…俺、嫌われてる?
もう一度ため息。

「酎?」
ハッ!
思わず考え込んで肝心の鈴木のことを忘れていた。
「で、どこ行くんだよ。」
いかんいかん、このままでは本当に嫌われてしまう。ポイントを稼がなくては!
「おぉ、腹減ってねぇだろ?まずは映画でも観にいこうぜ。」


と、二人が向かったのは映画館。題目は、ベッタベタな恋愛もの。
「あ〜この間TVで紹介してた。コレが観たかったのか?」
「ま、まぁな。」
もちろん嘘。
恋愛映画で気分を盛り上げる。古典的な策である。

ポップコーンとコーラを手に、ほぼ無理やり真ん中あたりのいい席を確保する。
周りはもちろんカップルばかりで相当浮いているが、これなら鈴木もロマンチック(古)な気分になるはず!
と、意気込んで上映開始5分後
「Zzz...」

…酎が目覚めたのは、本編終了10分前の事であった。

「いやー、結構面白かったけど、勝手に病院連れ出すのはありえないよなー。主題歌は良かったけどもっと効果的に使ってほしかったなー」
ポップコーンのごみを丸めながら突っ込みを入れる鈴木。
「そ、そうだな…。」

作戦失敗。



気を取り直して、丁度お昼の時間になったので最寄のファミレスへ。
入った途端、昼食時で混んでいる店内がどよめいたのがわかった。真昼間からモヒカンの大男がファミレスなんて、相当不似合いだ。
「スズキ様2名様、お待たせしましたご案内いたしま〜す」
五分ほどで順番待ちの紙に書いておいた名前を呼ばれる。
自分の場違いさと鈴木の溶け込み具合いのギャップが笑える。

ソファの背もたれにどっと腕を投げ出せば、周囲の試験勉強中の若者・おしゃべりなマダムがビビって一歩ひく。
「…オメーの好きなとこに行っていいっつったのは俺だけどよぉ、さすがに居づれぇなここは。」
自嘲気味に言う。
鈴木自身はまったく気にしていなかったらしく、さっきからメニューのハンバーグとパスタのページを行ったり来たりしていた顔を上げた。
「そうか?悪ィ。」
やれやれ、だが仕方ない。
「こういうとこ、よく来んのか?」
酎もようやくメニューを開く。
「あぁ、こないだも陣と凍矢と四人で飯食いに来たな。
今度鈴駒もつれてきてやろうぜ。あいつお子様ランチとか食うのかな?」
そいつぁいいや、と笑いあう。

「ところでなに食うか決まったか?」
「いや、全然。」
「じゃ和風ジャンボハンバーグにしろよ。俺ボンゴレスパゲティにするから一口くれ。」
どうやら食いたいものが絞れないらしい。言われた酎にはいったい何語だかわからない。
「なんなら両方食えよ、おごるし。」
「マぁジで?!お前熱ないか大丈夫?」
「あのなぁ…」
デートだもの、鈴木に払わせるわけにはいかない。
結局二人とも二、三皿ずつ食べた。ファミレスの雰囲気も慣れたら気にならないものだ。

腹ごなしに、人ごみの喧騒から少し離れた路地を徒歩る。
二人きりだ。

「マジ凄ぇな。」
「何が?」
改まる酎。
「オメーだよ。完全に人間界に馴染んでるっていうか」
普通の妖怪はスープバーで粘らない。
「あぁー、だって魔界としょっちゅう行き来してたし。名を変え姿を変えでいろんな土地行ったなー。これだけ人間界に詳しい妖怪は他にいないといえるね。」
と、得意気。

昔から人間界には数多くの妖怪が住んでいるが、彼らは大抵息を潜めて人間と関わらずに生きていた。
少しずつ存在を明かしていくと決めた彼らに、鈴木のような奴は重要な案内人となるだろう。

実は凄い奴。
それが鈴木の奇妙な魅力で、自分はそれにすっかりうっかりやられてしまっている。

「つか、お前だってこっち来て長いだろ?」
「まぁ、一応な。」

「頼むぜ!これからの世の中のために俺ら頑張らんと。」
どん、と、酎の胸にこぶしをあてる。
気合のつもりだったのだが、酎はその腕をとり鈴木の体を引き寄せて抱きしめた。
「おいっ?!」

「人間とか妖怪とか…そういうの気にしない時代になるんならよ、その…トシとか性別とかもカンケー無くなることもあんのかな?」
「何言って…?」
もがいて、なんとか腕から抜け出した。
これだけされても酎の想いに気づこうとしない鈴木。
「お前まだなんで今日街に連れてきたかわかんねーのか?」
デートです。

「じゃぁよ、最後だ。最後にひとつ、いうこときけ。」
そう、今日のデートは勝者への褒美・敗者への罰ゲーム。鈴木は酎のいうことを絶対にきかなければならない。
そんな無理矢理をいってでも、気づいて欲しかった。

「目、つぶれ。」

わけのわからないまま、でも真剣な酎に言われるがまま、目を閉じる鈴木。
酎の手が両肩をつかむ。

幸いここは人通りの少ない場所だ。
思い切って、そのくちびるを…

奪…



グサッ

痛ぁっっ!!

突然の悲鳴に驚いて目を開ける。
「…死々若ッ?!」


なんと、鈴木の純情(笑)が奪われそうになったのをみかねて死々若丸が酎を針で刺したのである。

「テメェなんでここに!」
どうやら鈴木の鞄に忍び込んでいたらしい。
「そういや鞄開けなかったから気づかなかった。」
…鈴木に財布を出させなかったのが仇になった。
「邪魔しやがって…せっかくの…」
「せっかくの?」
と、まっすぐな瞳で訊かれて言葉に詰まる。
「いや、あの…」
死々若丸は鈴木の肩に乗って笑っている。

もうヤケ。


「…酒。」
「え?」
「罰ゲーム!買い物行くぞ、お前のおごりで酒だ!」
真っ赤になった顔を隠すように、ずんずんと繁華街に歩き出す。
「なんだよ、やっぱりそのつもりだったんか。」
その言葉に何の疑いもない鈴木。


酎の思いが遂げられる日は、果てしなく遠い…。

大変長らく…(略)
鈴木受!ときたら相手は酎しかいない>_< と、酎鈴初挑戦?だったのですが…とりあえず、酎が惚れてる前提のところから始まってしまいすみません。死々若さんがお邪魔虫でごめんなさい。
酎が…豪快さが足りないのは二人きりで緊張しているからということでなにとぞ…。