国 破れて山河あり


暗黒武術会第一回戦・六遊怪Tvs浦飯Tが終了した。
ヘッドバッド対決に破れ完全にのびていた酎は、宿泊施設で目を覚ました。

「あ、やーっと起きた。」
やれやれといった感じなのは鈴駒だ。
「ここは…試合はどうなったんでぇ」
「浦飯に負けただろ?オイラ達もう敗退しちゃったんだよ。」

その割に気楽そうな口調だった。
特に悔しいとか恨めしいというわけではない。鈴駒としては、そんな重大な野望を秘めていわけではない、遊びのような感覚での参加だった。だから、勝てたし、十分楽しんで満足しているのだろう。

「あのあと観客どもがワーワー騒いでたんだけどさ、浦飯が一喝してくれちゃって、格好よかったんだぜ。ん?」
聞いちゃいねー
「ちくしょう…負けたのか!俺の酒が…賞品が…うわぁぁあ」
「げ。」
わめき出す酎。深酒も手伝い、こうなったらもう手が付けられない。

「酒もってこい、酒!鈴駒オメーも飲むか?」
「やめろってバカ!あぁもぉ〜」

***

数日後。

「ねぇ、浦飯達、二・三回戦って連戦で、しかもその相手が魔忍の修羅だったんだって。」
あれから酎の相手に追われていてちっとも大会を見に行けない鈴駒。観客の妖怪に浦飯チームの様子を聞いた。
「ぁー?」
「もぉ!いつまで酔っ払ってんだよ!あいつら魔忍に勝ったんだって!しかも本部の奴等汚ねぇことしやがって大変だったって…次は準決勝だよ、応援にいこうってば!!」
「うぇ…もう飲めねぇ…」
「聞け!」


一方、三回戦で敗退した魔性使いチーム。

試合終了後 目覚めた陣は傷もたいしたことなく元気そのものだった。
彼が見舞いに行くのは、もちろん凍矢。
医務室のベッドの上、細い身体に巻かれた包帯が痛々しい。
それ以上に辛辣な表情をうかべて。

「凍矢…傷が痛むだか?」
心配そうに顔を覗きこむ陣。凍矢は静かに首を振った。
「傷はすぐに回復する。それよりも…」
そのあとの言葉が続かずにうつむく。
凍矢の言いたいことは陣にはよくわかった。

光を求め、忍の里を抜け出してまで参加した武術会。結果は惨憺。
画魔を死なせてしまった。なのに自分は勝てなかった。
仲間の卑劣な行為を目の当たりにして、結局は負けて。
ショックは大きかった。

「でもオレは楽しかっただ。」
陣の言葉に凍矢が顔をあげる。
「ホレ、あいつらみんなすげー闘志持ってて、オレ耳が尖りっ放しだっただ!
幽助と戦ってる時は最高にワクワクした!あいつホント強かったな〜。くぅ〜っっ、もっぺん戦いてぇ!」
思い出しながらまた耳が尖る陣。

「そりゃ、吏将にゃ腹立ったけんど…。それもあいつらがぶっとばしてくれたし。オレは悔いは無ぇ。
あの状況を切り抜けたあいつらは本当に凄ぇと思うだ。」

島は手に入らなかったけれど。悲壮感は無かった。
それも幽助とのさわやかな戦いのせいだ。

陣の言葉に、気持ちが少し軽くなる。
凍矢も、確かに、幽助達の戦いぶりに救われていた。

「光…」
「ん?」

「あいつらは、光を持っているのかもしれないな。」
微笑う凍矢。

「陣、
ありがとう。」


***


「まだいるだぞー」
「あひっ陣と凍矢まで!!」
「し、失礼しやしたー!」

浦飯チームが準決勝を戦う会場の外で、雑魚妖怪に絡まれていた螢子と幽助(爆睡)を助けた酎と鈴駒、陣と凍矢。


「しかし、こいつがいなくて試合は大丈夫なのかよ。」
ってまた顔をむにーっとひっぱる酎。
「どうやら今は裏御伽チームの怨爺と、覆面戦士が戦っているようだ。
しかも、覆面の正体は霊光波動拳の幻海らしい。」
と、凍矢。
「なっ…マジかよ!」
会場では先ほどまで響いていた凄まじい死霊の呻き声が止んでいた。

「あいつらのことだ、心配ないだろう。」
「…だな。」

「なぁ、中入ろうぜ!」
「あぁ。じゃ、ねーちゃん、気をつけて帰んな。」
「は、ハイ、ありがとうございました!」


***

準決勝終了。
目を覚ました死々若丸はベッドから起き上がろうとしたが、首の辺りに激痛が走りかなわなかった。
「あ、気付きましたか」
白衣の看護師が声を掛けてくる。

そうか、負けたんだ。
確か、自分の技を跳ね返されて吹っ飛んで。なにかとんでもないことを口走った気もする…
情けない。

「一時は本当に危なかったんですよ。よかったですね」
いっそ死んでおいたほうがよかっただろうか、なんて思う。
「あぁ、それと…」
と、看護師はなんだか言いづらそうに…というか、笑いを堪えながら
「お隣りの方も、命に別状はないそうですので。」
必死で言い終わると、そそくさと去ってしまった。
お隣?
視線をやると、そこにはこてんぱんにやられて包帯まみれで寝ている誰か。
誰かっていうか、アイツしかいないのだが。
ひどい姿。
というか、変装を解いてあの面白い姿になったのか?

奥の方で看護師の爆笑が聞こえてきた。

(死にたい…。)



***


病院内ではお静かに。
「なぁ、行こうったら!応援しろとは言わないから」
「当然だ!!」
もめているのは裏御伽チームの二人だ。
死々若丸が決勝戦を観に行きたくないという。

「悔しいのはわかるけど、決勝戦だぞ?」
「誰が勝とうと、もうどうでもいい。」

どうあっても素直になれないらしい。
本当は死々若丸も決勝戦に興味があった。あの戸愚呂兄弟と、自分達を負かした浦飯チームがどんな戦いをするのか。
しかし、嫌だという気持ちも確かに本物。
自分が立ちたかった舞台で他の奴等が騒がれてるのは面白くない。負けた身分でのこのこ観戦など惨め。
自分でもどっちの気持ちが勝っているのかわからない。
ぎゅっと布団を強く掴む。

「…幻海は死んだらしい。」
鈴木の言葉に思わずばっと顔をあげる死々若丸。が、またすぐ視線をそらす。
「だから何だ。俺には関係ない」
かたくなに拒む。
「戸愚呂弟に殺されたらしい。幻海とは昔からの因縁があって」

「戸愚呂は、元人間だそうだ。」
「黙れ!!」


「行きたいなら勝手に行け、俺はお前と歩きたくない。」
ついにベッドにもぐりこんでだんまり。

全く、情緒不安定で意固地な相棒を持つと苦労する。
「チケット、ここ置いとくからな。」



結局死々若丸も、あとから一人で密かに観に行ったのだが。


***



決勝戦、最終試合は熾烈を極めた。
観客全体を巻き込む戸愚呂のフルパワー。

生命を尽くしてそれを制した幽助の戦いは、確実に全員の心に光を残した。


祭のあと。


バトルマニアの血が騒ぐ。
「すごかったね!オイラももっと強くなりてぇや」
「全く、てぇした奴等だな。よし、祝盃だ!」(飲みたいだけ)


求めていたものが、片鱗だけ見えた気がする。
「里には帰れないぞ。」
「覚悟の上だべ」


これからは今までと違う一歩。
「ピエロはもういいのか?」
「…結構です。」



それぞれの思いを抱え、静まりかえる首縊島。




夏草や
つはものどもが夢のあと

お待たせいたしました、「六人衆の小説」をお送りいたします。
特に内容の指定がなかったので好き勝手書かせていただきました^^; 暗黒武術会での彼らの、描かれていない隙間を埋める感じです。
原作やアニメを基に自然に推測できる展開を目指しているはずなんですが、自分じゃもうよくわかりません。
お気に召していただけたら幸い…
この度はどうもありがとうございました!