ちゃららら〜 ちゃららら〜ら…
テレビから聞こえてくるのは、流行りすぎてもはやギャグでしかない人気純愛ドラマのテーマソング。
「鈴木、お茶が入ったぞ」
「ちょ待てって。今いいとこいいとこ」
今世間では、やたら純愛をうたうドラマが大量に発信され、夢見るヒトが大発生。
それにまんまと踊らされているのが鈴木。今日も今日とてレンタルビデオを何時間も飽きずに見ている。
久し振りに六人がそろったというのにお構いなしだ。
「ったく、せっかく来てんのにさっきからずっとああだべ。」
お茶を飲みながら陣がぼやく。
「お前も観てみろって、ハマるから」
「えー?」
乗り気でなかった陣だが…
『交通事故で記憶を失ってしまったんだ。』
『愛してるわ〇〇さん!』
「陣ー、お茶が冷めるぞ」
「ちょ待、今いいとこだべ」
ミイラ取りがミイラ…
「なんでぇ、鈴木の奴いつもあぁなのか?」
酎の問いに死々若丸は、うなずく代わりに不満の表情で答えた。
「あちゃー。奥様のブームにのるなんて…どこまで人間くさいんだよ。」
鈴駒も呆れた様子。
しかし十分もすれば二人もテレビの前に移動していた。
「すごい伝染具合だな…」
辛うじてまだこちらに残っている凍矢が同情する。
「ったくだ。あれならまだ珍妙なアイテムでも作っていたほうがましというもの。」
テレビの前の連中からは、ドラマの展開に一喜一憂する声が聞こえる。
数時間後…やっと今借りている分のビデオをすべて見終わった。みな感無量のご様子。
「いやぁ…。
死々若、ちゃんと観てたか?もう感動して涙が止まらないよ…」
「目が乾いてるだけだろ、朝から晩までテレビ観てたから。」
情緒無い。
「純愛ゆえの切ない展開が胸を打つんだよなぁ。」
「ほんと、ハラハラしちゃったよ」
「世間じゃ面白ぇーもんが出回ってるだなぁ。」
もう、こいつらに何を言っても無駄。
「どうでもいいがもう遅いぞ。」
そう、ビデオを見ているうちにすっかり日が暮れてしまったのだ。
「なんだよ、飯くらい出してくれよ」
もちろん始めはそのつもりでいた。が
「うるさい!とっとと帰れ!」
死々若さんはご機嫌ナナメ…
それはたぶん鈴木が相手にしてくれないから。皆それがわかったのでおとなしく引き下がった。
また鑑賞会開こうな・なんて言いつつ解散。死々若丸と鈴木ふたりきりになった。
お茶菓子の残りを黙々とつまむ死々若丸。湯飲みを片付け終わった鈴木がようやくそばに寄る。
「死々若ぁ…俺たちも、どんなに辛いことがあっても乗り越えていこうな!」
ドラマの余韻バリバリ、ぎゅっと抱き締めようとする。
「うざったい!!」
そんな腹部に鉄拳がクリーンヒット☆
「安心しろ、俺は記憶喪失になったり、実はお前と兄弟だとか、交通事故だの病気だので死んだりせん!」
床で悶える鈴木に言い放ってやった。
***
遅めの晩飯のあと、ようやく就寝。
目を閉じればドラマの映像が浮かぶようだ。
ありえないとわかっていても、やっぱり自分と死々若丸に置き換えて観てしまう。
ここで泣いてるのが死々若だったら…
このとき俺がこいつだったら…
そう思って感情移入すると、余計ハラハラするのだ。
"安心しろ、俺は…"
記憶喪失・に、自分の失敗のせいでさせたことはあるけど…それも乗り越えた。
実は兄弟・なんて、どぉおう考えても無理。ありえない。心配ない。
それにただでさえアレなのに、今更禁忌が増えたところでなんら変わらないだろう。
交通事故なんて…逆に車を木端微塵にする力はあるし、
病気…人間界の病気にかかる程ヤワでないし、なにかあったとして俺が必ず治す。
うん、よし、心配ない。
しかし…
"死んだりせん!"
戦いに身を置く自分達。いつだって死の影は憑きまとう。
死々若が死んじゃったら、…嫌だよ
***
そんなことばかり考えて、結局いつごろ寝られたのか記憶に無い。
夜は明けて。
開口一番
「死々若、俺が死んだらどうする?」
また唐突な話をふられた死々若丸は眉を寄せる。
「くだらん…」
興味なさそうに新聞の頁をめくる。
「だって、死々若が死んだら俺どうしようって…考えたら眠れなくて!」
…寝ずになんて不吉なことを考えてるんだ、こいつは。
確かに疲れた目をしている。昨日はただでさえビデオで酷使したというのに、無茶をする。
やれやれ、仕様のない阿呆だ。
新聞を置いて、まっすぐ鈴木を見る。
「そしたら待ってろ」
「待?」
「俺が生まれ変わるまで。」
死々若丸はなんでもないことのように言ってのける。
「だって…それで雷禅は死んだじゃ…」
「断食なんてするからだ。お前は飯は食え。」
「うん…」
「待てないのか?」
生まれ変わりなんて立証されていないのに。まるで確信めいた強気な瞳はなにゆえか。
つい、その言葉を信じてみたくなる。
「…待てる。
何百年でも、何千年でもいい。きっと見つけ出してみせる!」
「よし。」
言わせると、ポンと頭をなでた。
死々若丸に慰められるようなことは滅多にない。だから、たまにこんなことされると改めてときめいてしまう。
鈴木は少し照れながら、背景に花が咲きそうなくらい爛漫で満面の笑顔を見せた。
「あ〜、ホッとした。ありがと死々若。」
「そうか。
じゃ、行くぞ。」
「?どこに。」
咲き乱れる花が硬直する。
「ビデオの続き借りに!!」
言い捨ててさっさと外に出てしまう死々若丸。
「なんだよ、やっぱり死々若丸もハマって観てたんじゃん!!」
急いで後を追う。
え、それとも何、今ちょっと素敵な話してたのは早く続きが観たかったから?
…まさか、ね。
純愛なんて、そんな可憐なもんじゃないけれど。
いつだって、生まれ変わったって。信じてる
この絆。
fin.
大変長らくお待たせしちゃってごめんなさい、"鈴木と若さんで「生まれ変わっても一緒にいようねv」みたいなお話" いかがだったでしょうか…
なかなか難しかったです。地味に微妙に趣旨がずれてそうで怖いですが…
やっぱり鈴若で韓流純愛は無茶ですね(笑)
わんこ牧場さん、こんなんですがどうぞお受け取りください☆