某年、元日。

「あけましておめでとうござーぃまーっっ!」
「陣、玄関が壊れるぞ。」

鈴木と死々若丸が暮らす邸宅に勢いよく飛び込んだのは陣。後ろから酎、鈴駒、凍矢が続いて中を覗き込む。
しかし、返事は無い。四人は「?」と顔を見合わせた。

「すずきー、ししわかー、いないだかー?」
「年越しでTV観ながら夜更かししたからまだ寝てるとか。」
「だがもう昼になるぞ。いい加減起きていても…」
四人は勝手にずかずかとあがりこみ、家主の気配を探す。
ほどなくして見つかったのは、裏御伽Tの二人ではなくて…

「あら!あけましておめでと〜みんな。」
「ことしもよろしくお願いしますぅ」
きらびやかな振袖に身を包んだ螢子や雪菜…むこうには小兎と瑠架もいる。

「なんだぁぁこりゃ?」
と、奥から鈴木がやってきた。
「あぁ、鈴木!」
「あれ、みんな来てたの?あけおめ。」
「ことよろ。じゃなくて、一体なんなのさこれ。」
「あー、実は…」
お疲れなのか肩をグリッと回しながら、鈴木は回想モードに入った。

***

年の瀬も迫る頃、突然の来訪者はぼたんだった。
「元日なんだけどね、みんな初詣に行くのに振袖着たいんだけど、さすがにあたしひとりじゃ何人も着付けるのは大変でさあ。死々若丸、手伝ってくれないかい?」
ぱんっと両手を合わせる。死々若丸と鈴木は顔を見合わせた。
「いや、事情はわかったが…女の着替えの手伝いを俺がしていいのか?」
「死々若丸ならオッケー!」
「なんだそりゃ。」
「俺も着付けなら出来るぞ?」
鈴木が申し出るが
「いや、鈴木さんはいい。」
「なにをぉっ!?」
「鈴木さんには髪のセットをやってほしいんだ。」
つまり、鈴木がセット&メイクを担当し、ぼたんと死々若丸が着付けを行う。ここなら広くて荷物も置いておけるし、とても都合がよいのだという。
こんなに一生懸命頼み込まれたら、断るわけにもいかない。というわけで。

***

「今やっと最後のひとりが着付けに入ったところ。」
「お疲れさんだべ。」

しばらくすると奥の部屋から着飾られた樹里が現れた。
普段と違いアップにした髪。振袖姿はきらびやかな中にもしとやかさを感じさせるものがあった。
「す、鈴木さん、どうですか…?」
「おー、かわいいよ。」
何気ないその言葉に樹里が必要以上に赤くなっていることに鈍い男どもは気付かない。
おなごたちはお互いの姿を見てキャッキャと褒めあってははしゃいだ。

続いてぼたん、死々若丸が出てきた。
「お疲れ〜死々若。」
「疲れた…鈴木、茶。」
「いや俺も疲れてんだけど。」
なんかもっとこう、ねぎらいの言葉的なものをさぁ〜… などとという鈴木の発言は誰も聞いていなかった。

「いや〜ほんとにありがとね!荷物はまた明日にでもってことで…うん、じゃ、今日はこの辺でッ」
「お疲れ様でした〜」
「行ってきまーす」

女性陣はみな颯爽と初詣に出かけてしまった。
男達だけが取り残された室内…
「なんか、華が無ぇな。」
「やかましいわ。」

「で、まーせっかくきたんだゆっくりしてけよ。」
「いや、というか俺らも初詣にでも行こうかと思って誘いに来たんだが。」
「おお、マジでか。」

せっかくなのでどさくさに紛れて袴姿で行こうかという提案が出た。鈴木や死々若丸が所有している袴は、鈴駒や酎にはサイズが合わなかったが 陣は着ることができた。
「ウチにあんのはあと2着だけど…」
鈴木が死々若丸と凍矢の顔を順番に見る。
「お前らで着ろ、俺はもう動きたくない。」
と、死々若丸は体を翻すとミニサイズに変身し、ポフンと凍矢の頭に乗った。

そんなわけで鈴木と凍矢が袴姿に着替えたのだが…
「でかくないか。」
「ぶかぶかだべ。」
「いや、凍矢がちっちゃいんだよ。」
「お前ら…」
死々若丸の袴は、彼より小柄な凍矢にはいささか大きかった。

「行くならとっとと行くぞ。」
凍矢の頭の上でちび若がふてぶてしく言った。

***

六人が向かったのは、電車でしばらく行ったところにある そこそこ有名な神社。
たどり着けばさすがに元日、見渡す限りのヒト人ひと!
「うっひゃぁー、はつもーでってのはすんげぇだな〜!」
「はぐれたら大変だ。みんな気をつけ・ぇぉっっ!!?
と、凍矢はぶかぶかの袴の裾につまづいて転んでしまった。
「あいたた」
体を起こしてあたりを見渡すと
「あれ?みんな…」
視界には他人の人混み。言ってる傍からはぐれてしまった。
「…凍矢」
頭に乗っていたため巻き添えをくらったちび若が呟く。
「S級妖怪でも 普通に転ぶんだな。」
「うるさい…。」

「とりあえず、俺が高いところから探してみよう。」
なんとなく「高い」を強調して言ったような気がしたが凍矢は気付かないフリをした。ちび若はすぅっと空に舞い上がると、狛犬の上に乗って辺りを見渡した。
「あっちに酎がいる。あいつはでかいからわかりやすい。」
「…何が言いたい」
「いや別に。」

そして酎と再会したのだが、酎も既に他の面子とはぐれてしまったようで一人だった。
「全く、どいつもこいつも…!」
「真っ先にいなくなった奴に言われたかねえよ。」
再びちび若が空中からあたりの様子を探る。
と、すぐに二人のもとに降りてきて、ある方向を指差した。
そっちに残りの面子がいるのか。案外はやく見つかってよかった…と思いながら向かうと
そこにあったのは、たこ焼きの屋台。
「死々若丸…?」
「…。」
「食べたいのか。」
ちび若は頭上でコクリとうなずいた。

やれやれとため息を吐きながら、凍矢は屋台に並んだ。
さすが出店の中でもたこ焼きは人気のようで、長蛇の列ができている。おとなしく順番を待っていると、やがて見慣れた帽子が現れた。
「あっれぇ?何やってんの」
「鈴駒!」

ようやくたこ焼きを購入し、人ごみの喧騒から離れたくつろぎスペースで出来立てのものをいただく。
「ん!うめぇ〜なコレ!」
「あぁ、屋台にしては凝っているな。」
「ぁっぃ」
「らったく、はがしへたんだからえ、ろこいっへはんだお」
「鈴駒、食べながら喋るな。」

口の中のたこ焼きを飲み込んでから、鈴駒が再び発言した。
「三人ともさっさとはぐれちゃって!探してたんだからね、もー!」
「陣と鈴木はどうしたんだ?」
「なんでぃ、あいつらも迷子か?」
「さっきまで二人も一緒にみんなのこと探してたんだけど…おみくじひきたいから待ってろって」
「全く…。」

と、どこからか「うわぁーっ」という声が響いた。神社中にどよめきが広がる。
なんとなくいやな予感がしつつ、四人はそちらの方へ行ってみると 騒ぎの渦中にいるのは
「陣…」
「鈴木…」
「なにやってんだぁあいつら?」
「もー、やだ…。」

野次馬を追っ払い、二人の下へ近づく。
「あ、みんな!」
「凍矢!オメちっちぇえから探すの苦労しただ」
「陣…鈴木…一体なんの騒ぎだ?」
と、足元に獅子舞がのびていることに気がついた。
四人の視線がいっせいに二人を睨む。
「ど う い う こ と だ 。」
「いや、あの〜、」
ビビリながら、鈴木が説明を始める。

「おみくじを引いたんですよ。」
「オレ大吉だっただ!」
「俺は凶だった…。」
「で?」
凹む鈴木はスルーして続きを促す。
「凶のおみくじは厄払いにそこに結びつけるらしくて、やってたんだよ。そしたら、その間に陣が」
全員の視線が陣に移動する。
さすがの陣も「あれ、なんかまずかった?」という顔になり
「そのヘンナノが襲ってきただよ!オレに噛み付こうとすっからこんにゃろうと思って一発」
「くらわせたのか。」
「んだ。」
・ ・ ・ 。
呆れてものもいえない、という空気だった。
「陣、それは獅子舞といって、頭を噛まれると縁起がいいってことになってるんだ。正月の行事なんだよ。」
「 う そ。」
「…。」

「ああ、もう、いいからさっさと参拝に行くぞ。」
凍矢が率先して境内へと歩き出す。
「オイラもう疲れたよー。みんなもう寄り道しないでね…って、酎は?」
いやな予感再び。

「がーっはっはっは、おいねーちゃん こんなんじゃ足りねぇよぉゥイック」
突如響いた笑い声に振り向くと、モヒカンの男が甘酒の屋台を荒らしているではないか。
「ち ゅ う …!」
「おーみんな、こっちで酒が飲めるぞぉ一杯やろうや。」
「そう言うなら一杯で済ませろ!」
そこには既に空になった紙コップの山が築かれていた。
「なにこれ、お屠蘇?」
「んにゃ、甘酒だべ。」
どさくさに紛れて鈴木と陣も加わっている。
「家で飲め、家で!たいして金も持ってないくせに…」
と、怯えきっている店員が目に入った。
「すまない…勘定はいくらだ?」
やれやれと凍矢が財布を取り出す。店員は、恐る恐るといった感じで口を開いた。
「ごせん にひゃく ごじゅう えん です」
ピシッッ
その瞬間、空気が凍りついた。
比喩ではなく、凍矢の妖気によって酎・鈴木・陣が氷漬けにされたのである。

「さ、行くぞ、鈴駒、死々若丸。」
「はぁ〜あ。死々若なんてとっくに飽きて寝ちゃってるよ。」
阿呆トリオは放っておいて、境内に向か
…うわけにもいかないので、古くなった達磨や破魔矢を燃やす焚き火の中に放り込んだ。
「熱!熱ーーッ!おいぃぃちょっと待てぇええ」

***

そうして や っ と のことで参拝を終え、初詣は終了となった。

「いやー、はつもうでって面白いだな〜。」
「俺もこんなに充実した初詣は初めてだ。」
「違う、初詣はこういう感じじゃない…」
凍矢の小さなツッコミは、誰の耳にも届かなかった。

「な、何お願いしたんだ?」
「俺ぁもちろん今年も美味い酒をたらふく」
「ちょっとは反省しろ、お前!」

帰り道、まだまだ賑やかなそんなやりとりを聞きながら、鈴駒は空を見上げた。
(ほんとに神様ってのがいるなら、オイラのお願いきいてくれるかな〜。)
辺りはすっかり暮れなずんでいた。

鈴駒が初詣で祈ったこと。それは

「皆がもうちょっと常識ある大人になりますように!」

…本年もよろしくお願いいたします。

end.

大変長らくお待たせいたしました!(汗) 世間では桜が満開真っ盛りですが、六人衆で初詣のドタバタ小説です。
書き終えた瞬間にバグって、消えて…
ヤケで速攻書き直したので 初稿よりだいぶ端折りました; なんと無駄な描写が多いんだと気づきましたよアッハハ…
酎・鈴木・陣→迷惑担当、 凍矢→説教担当、 鈴駒→呆れてる、 死々若→寝てる、という役割分担になりました。
寿様リクエストありがとうございました!こんな私ですが見捨てないでやってください…。