赤い髪の少年。
今日も少年の周りには血しぶきが煙る。
その赤い瞳に見据えられて、生きて帰った者はいなかった。


「…残ったのは貴様だけだ。どうする、逃げるか?」
辺りには数体の妖怪の死体。
唯一生きているのは金髪の青年。苦痛に顔を歪め、地面に片膝をつきながら何も言わないでいる。
「よし、10秒待ってやろう。鬼ごっこだ。もっとも、相手は本物の鬼だがな!」
途端、少年の形相が豹変し、より一層禍禍しい妖気を放つ。

「いーち、にーい…」
経験では、大抵の妖怪はそれで逃げ出す。しかしこの青年はそうする様子はなかった。
少年はそれが気にくわない。
「何故逃げない?貴様は今から俺に殺されるんだぞ。もっとわめけ!命乞いをしてみろ!」
威嚇の妖気を抑え、青年の喉元に刃をつきつける。
それでも青年は気押されない。真っ直ぐに少年を見つめ返す。
「…命乞いなどしない…俺はもう二度と負けないと誓ったんだ!!」
パリンッ
少年の刀が青年に掴まれ、砕かれた。更に一瞬の虚をついて殴り飛ばす。
「…っ!」
「自分の力を過信するなよ。魔界にはまだまだお前の知らない強い奴がいるんだ。」
青年は少年に攻撃を加えるでもなくそう言い捨てて、去った。


少年が帰りついたのは和風の屋敷。魔界とは思えないような見事な日本庭園がある。
池の魔界魚に餌をやっているのはかなり大柄な男だ。その男が少年の姿を見て、話しかける。
「おぉ、死々若丸。帰ったか。…相変わらず赤い髪して。」
少年を"死々若丸"と呼んだその男の名は"弁慶"。
「フン、雑魚が多すぎるんだ。風呂を使うぞ。」

弁慶と死々若丸は、ずっと昔から一緒にいた。性格は残虐。ある存在理由に従って生きている。
他人には鬼のように冷酷だが、お互いの信頼はかたかった。

血をすっかり洗い流し、新しい着物に着替えた死々若丸。弁慶とともに晩の食卓につく。
「…先ほどとはまるで別人だな。」
まじまじと死々若丸を見て弁慶が言う。
「この辺りの妖怪からは"赤い鬼"と恐怖されているお前だが、その長い髪が本当は青色だと誰が知っているだろうか?」
「フ、お陰で俺だと気付かずに襲いかかる阿呆が沢山いて血には困らんがな。」
刀を手放せば見た目は普通の…いや、かなりの美少年だ。…が、その口から発せられる言葉は過激なものだった。
「お前は強いからな。」
微笑を浮かべる二人。

しかし、ふと死々若丸の表情が曇る。
"魔界にはまだまだお前の知らない強い奴がいるんだ"
今日殺し損ねた男が言っていた言葉が頭をよぎる。
…魔界は広い。俺の名を轟かすにはまだまだ強くならなければならない…


そんな折。その言葉を実感するときが来た。
その妖怪はおそらく魔界のもっと深いところからやってきたんだろう。周辺の妖怪どもとは比べ物にならない強さだった。

「これが噂の"赤い鬼"か?口ほどにもないなァ」
「く‥っそォ!!!」
いつも返り血で赤い髪が今日は自分の血で染まる。
それでも怯まない死々若丸。力を振り絞り斬りかかる。
「ハッ。愚かだな、己の弱さも分からないのか?」
刀は簡単に受け止められ、まっぷたつに折られてしまった。
「!!」
「後悔して死ね!」
妖怪がとどめをさそうと構える

自分はここで死ぬのか?
まだ目的は達成されていないのに
俺の生きる意味は果たされていないのに
こんなところでこんな奴に…!


そのとき
「レインボーサイクロン(仮)!」
「なんだ?うわぁぁ!!」
どこからかやってきたカラフルな光線が、目の前の妖怪を消してしまった。

「?!」
あまりの突然な出来事に、目の前が真っ白だ
呆然と見上げると、そこには先日の金髪男が立っていた。
「大丈夫か?」
そう言いながらさしのべられた手を、死々若丸はパシッとはらう
「…何故助けた。正義の味方気取りか?誰も助けてくれなんて言っていない!」
それを見た青年は困った顔をして諭す。
「そんなに負けた自分が許せないのか?」
「…」
「…気持ちはよくわかる。だがな、敗北を知ったなら強くなればいい。生き延びてもっと強くなればいいだろ?」
「もっと強く…?」
前向きな発言。死々若丸には意外な言葉だった。

「…数年前、俺はある奴に負けた。無様で惨めな敗北だった…。」
苦い記憶に表情が少々沈む。しかし顔をあげ続ける
「俺はいつかそいつに再戦を挑む!それを目標に生き延びた。そのためには何だってしよう。」
自分に確かめるように言うその瞳は力強く野望に燃えていた
「負けたまま死にたいと言うようなら俺が殺してやろうか?」
ふっと意地悪な笑いを浮かべる。

…この男、思ったより深い。
死々若丸はこの不思議な青年にひかれはじめていた。
「目標ならあるさ…俺達を歴史の闇に葬った正義漢を皆殺してやる。そして俺の名前を世界に轟かせる!」
綺麗な顔してこの発言。青年はぎょっとした。
「お前、裏御伽か?」
「いかにも。死々若丸だ。貴様、名は?」
「…鈴木。」

死々若丸は青年―鈴木の手を借りて立ち上がった。
「鈴木、礼を言っておこう。俺はもっと強くなる。お前も負けるなよ。」
そう言って去ろうとするのを、鈴木が止めた。
「おい死々若丸、お前の刀また折れたのか?」
立ち止まった死々若丸は自分の左腰に目をおとした。
剣士の命といえる刀が今はない。

「こないだは貴様が折ったんだろう!」
「まぁまぁ。言っておくがお前は強いぞ。ただ刀がそれについてこれていない。これをやろう」
鈴木が放って渡したのは木の棒だった。
「…なんだこれは。こんなもので戦えと?」
受け取った死々若丸は不信感を露にした。
「その刀はまだ未完成だ。お前の妖気を染み込ませることで、お前に合った世界にたった一つの剣に成長する。」
どくん どくん
脈が剣に伝わる。心なしかどんどん手に馴染んでいっている感じがする。

「ほう…面白い。だが何故俺に?」
そもそも都合よくこんなものを持ち歩いているこの男の真意とは。
「実を言うと今日はお前にそれをやるために来たんだ。」
「俺にわざわざ?恩を売ってどうする気だ」
「貸し借り言う気はないさ。アイテム作りは俺の趣味でな。お前に合うと思ったから持ってきた。」

…物好きな奴。
先日会ったときに死々若丸の残忍さはわかっているはずだ。
その武器で殺されるかも知れない。魔界はそういうところだ。
なのにこの男は警戒心もなく笑っている。
「縁があったらまた会おう」
そう言って男は去った


ある朝
屋敷の一角ですさまじい死霊の叫び声がする
「なんだおい?物凄い声だな。」
呟きながら弁慶が音のする方へ向かうと、死々若丸が剣を持って立っていた。

「死々若丸…?」
「ククク、どうだ弁慶?いい声だろう。これが俺の新しい剣…魔哭鳴斬剣だ!」
魔哭鳴斬剣と名付けられたその刀は、先日もらった木の棒である。
死々若丸の邪悪な妖気を浴び、見た目も禍禍しい死霊が宿る剣に成長した。
池の魔界魚はその声を聞いてショック死している。

「なんとも物騒な刀だな…」
「所詮、"俺"は悪だからな。」
「え?」
「いや、なんでもない。さぁ飯にしようか。」


それから…死々若丸はその刀を手に名をあげていくこととなる。
鈴木と再会し、共に暗黒武術会に出場するのはまだ数十年先の話である…


書きたかったんだ過去シリーズ!とりあえず第一弾:鈴木氏との出会い(続くんだろうか)
オリキャラ登場させるのって苦手だ‥(だからって弁慶/笑)鎌倉時代勉強しなきゃx_x
なんかラブラブて感じじゃないですね。でも鈴木さん、それって一目ぼれ?多分弁慶も死々若にメロメロ 笑
シリアスっぽいですが出来はどうなんでしょう…?