ん?
ふと気づくと目の前が真っ暗だった。
確か学校へ行く途中に空飛ぶブタが中華料理を大会に出場して俺がコショウを届けに金斗雲に乗って
…?
あー、夢か。
夜中に目が覚めてしまった鈴木。
ひとかけの光も差し込まない、今は夜中の二時だろうか三時だろうか。
ボケーっとしたこの頭のまま再び目を閉じればすぐに眠りの世界に戻れそうだった。
隣の布団からサーっという寝返りの布団の衣擦れの音が聞こえる。
もちろんそこにいるのは死々若丸。
サーっ
妙に頻繁に響くその音。なんだか落ち着かない様子。
「…死々若、起きてるのか?」
もしそうでなかったらこの声で起こしてはいけないと、むしろ聞こえないように小さな声で訊く。
「お前、起きたのか。」
思いのほかはっきりと返ってきた声が夜の闇に静かに響く。
「あぁ。‥お前は寝たのか?」
真っ暗に少し慣れた視界の中で、向かい側の頭が横に振れたのが見えた。
夏も過ぎかけ、夜もずいぶん過ごしやすくなったのに何故だか今夜はなかなか寝付けなかった。
隣で鈴木が小さな寝息を立てているときもそれを聞きながら眠りに入ることが出来なかった。
眠れない焦りが余計睡眠を妨害し、地球の回転から自分だけが置き去りにされたかごとくいつの間にか時計の針がぐるぐる回っていた。
「一人で先に寝おって、馬鹿め。」
「ごめん。」
鈴木に責任は無いのだが、苦笑。
なんだか眠気の尾が引いてしまった鈴木は上半身を起こした。
「ちょっと出ようか。」
ぼーっとしたまま連れ出されて縁側に座る死々若丸。すっかり夜に中てられてしまっていた。
明日なにがあるというわけでなくても、眠れないのは辛いことだ。
空を見たって月も出ていない。
「はい。」
遅れてやってきた鈴木が何かを手渡す。
それは 大船渡名物『かもめの玉子』この間幽助がどこかに出かけた土産にと分けてくれたものだ。
「こんな時間にお菓子など‥」
「いいんだよ、たまには。少し気分変えないと眠れないだろ。…いらないなら俺が食うけど?」
もちろんそんなことはさせない。鈴木もそれがわかってるから言うのだが。
秋限定の栗バージョン。少し黄色がかった外見に、中身は栗あん。
「ん。うまい。」
そのまましばしぼーっとする。揺れる草木、流れる雲を見つめながら。
時間の流れなどどうでもいいと思える。いつもと少し違うこんな夜。
ひとりで張り詰めていた気持ちが少し楽になった。
「戻ろうか」
死々若丸はうん、とうなづいた。
お菓子のごみを拾いながら鈴木は縁側から立ち上がり、死々若丸に手を貸す。
「そっちの布団で一緒に寝てあげようか?」
「阿呆かッ!あっち行け!」
しっしっと手で追い払いながら死々若丸は自分の布団に身を沈める。
「じゃーよく眠れるおまじない してあげる。」
と、めげずにずずいと近づいてくる鈴木。
「……なんとなくわかるから要らん」
「そう言わずに さ」
ちょっとでも布団から顔を出したのが間違いだった。
鈴木はもう吐息がかかるほどそばにいて、すかさず額に口付けを。
それだけでもこっ恥ずかしいというのに、瞼に、頬に、順番にキスの雨を降らす。
そして最後に唇に、苦しくなるくらい深く熱く唇を重ねた。
「ん………馬 鹿ッ…」
甘い甘い夢を見ているみたいだ。
それには先ほどまでは決して感じることが出来なかったぬくもりがあった。
悔しいことに、本当にこのまま眠ってしまいそうな 安堵感に満ちた気持ちに包まれる。
「おやすみ、死々若。」
ようやく唇を開放し、あの笑顔で囁く。
返事はしてあげなかった。
また鈴木にしてやられてしまった…
悔しいけど、嬉しくて、鼓動が高鳴って体温が上がるのを止められないのがまた悔しかった。
しかし、あのお菓子 美味かったな。
明日また食べよう。今度はお茶と一緒に
そう、鈴木にお茶を煎れさせて
鈴木といっしょに
またあした
..zZ
おかしいな……なんでこんなにラヴいんだろう……?そしてありがちなオチです(笑)
もっとわがままな若ちゃんと可哀想な鈴木さんがかきたいんですけど、いつの間にかこうなるんですねー大問題ですねー。
かもめの玉子、春は苺 夏は桃 秋は栗 冬は蜜柑 の限定バージョンがあるんですって!皆さんご存知でした?