暗 黒 武 術 会

それは闇の世界の人間達の黒い娯楽。妖怪同士を戦わせるトーナメントである。
優勝したチームの妖怪は、なんでも望みを叶えてもらえるという。

過去を隠したピエロ・美しい魔闘家鈴木と 魔哭鳴斬剣を手にした裏御伽・死々若丸は、ともにチームを作ってこの大会に参加することとなった。



***



そうと決まった(美しい魔闘家)鈴木は早速、死々若丸を自分の住処だという洞穴に案内した。

「なかなかよいところだろう?自然の洞穴を改造してみた。」
手前の広い空間…リビングルームのつもりなのだろう…にて、どこからかお茶を持ち出す(美しい魔闘家)鈴木。
彼の形容しがたい雰囲気にいささか気圧されながら、周りを見渡す死々若丸。
奥は薄暗くてよくわからないがどうやら相当深い。その途中にはいくつもの横穴があり、まるで個室のようだ。
(これを一人で?)
やはりこの男、只者ではない。
(美しい魔闘家)鈴木に視線をやる。
…。
(なんでこんなヤツが。)
「なんだ、私が美しすぎてため息が出たか?」
違う 違う。
しかし(美しい魔闘家)鈴木は自分のペースで、変なポーズをつけながら勝手に喋り続ける。

「一番奥が私の研究室だ。その他の部屋は大体物置になっているが、好きなところを片付けて使え。」
「研究室?」
「あぁ、お前の刀もそこで創った」
その言葉に 心臓がどくんと鳴った。

持ち主の気を吸って生長する『試しの剣』。まだ不完全な魔哭鳴斬剣。

「少し改良したい、それを預けてもらえないか。武術会までに必ず使えるものにする。」
その瞳は真剣、ものづくりの実力は本物。……ただ 何でピエロなんだ…。
若干の疑念は消えないが、(美しい魔闘家)鈴木を信じて、魔哭鳴斬剣を差し出した。
「武術会までに俺はまだ強くなるぞ。それに合わせろよ。」
頼もしい、強気な発言。ピエロが少し笑った。
「そうでなくては」


「さて、武術会の話をしよう。出場するには5人か6人のチームを作らなくてはならない。
  あと3人、生憎私には心当たりがない。死々若丸はどうだ?」

仲間…
「いない。」
いなく なった。
それ以上の言葉は出てこなかった。
先の出来事が 己の未熟さがフラッシュバックして、こぶしを握る。
(美しい魔闘家)鈴木はそれ以上のことは聞かず
「まぁ、そのへんの幻魔獣でも捕まえてきて私のアイテムを与えてやれば問題ないだろう。うわっはは!
  では私は作業に集中したい。そのへんはお前に任せていいか?」
うなずく死々若丸。
「チーム名はどんなのがいい?『美しい魔闘家 鈴木と 伝説のお供たち』もしくは『レインボー戦隊…
阿呆か
「なにを!」

「大将の座は欲しければくれてやる。ただしコンセプトは俺が決める」
「ほう?」

「 裏 御 伽 」


紅い瞳が決意を発していた。

「…いいだろう。
  しかし、それでは私のこの格好は浮いてしまうな…。よししばらく待っていろ。」
と、奥の部屋へ下がる(美しい魔闘家)鈴木。

なんだかあの男のペースにすっかりはめられてしまっているような気がする。
そこらに適当に腰掛け、ぬるまったお茶をゆすってかき混ぜながらしばらく待っていると

「フォフォ…待たせたの」

しばらくして奥から出てきたのは…老人。
死々若丸は目を丸くした。
「これなら『裏御伽チーム』の大将にふさわしいじゃろ。名前は…『怨爺』とでも名乗ってみるかのう?」
声、体型、雰囲気に妖気に、どれをとっても先ほどとはまるで違う、別人としか思えない完璧な変装だ。

「どうじゃ?」
「ぁ…。そうだな、悪くない。」
呆気にとられたがはたと我に返り応える。
「しかし、その姿で武術会に参加するのなら折角のピエロが無駄になるがいいのか?」
いや死々若丸としては別に全く構わないのだが。
あいにく老人は不敵な笑みを浮かべ、
「その点は心配無用じゃよ」
と、顔のメイクをベリベリと剥がし始めた

ボンッ★
ベタな効果音と謎のスモークが起こったと思うと、目の前には再びピエロの姿が
「この通り、いつでも戻れるようになっている。はっははっはー!」

(この男…本気で本物の馬鹿だ!!)



何はともあれ、『裏御伽チーム』ここに誕生である。




***




そうして おじいさんは山へ芝刈りに 鈴木は研究室にこもりアイテムの開発を、死々若丸は残りのメンバーを探すことになった。
洞穴からあてもなくうろついてみる。
そこらのジャガイモやカボチャでも充分だが、できることなら少しは知恵のある奴がいい。

しばらくすると、複数の妖怪が一匹の幻魔獣を追い込んでいる現場に遭遇した。
弱肉強食、無意味に血を求める妖怪たちの巣窟である魔界ではそう珍しい光景ではない。死々若丸は幻魔獣を助ける気などもちろん無く、少し様子を伺っていた。

…あの妖怪たちは駄目だ、頭が悪そうだし品がない
放っておいて行こうかと思ったところ、様子が少し変わった。
その豚のような幻魔獣が何かを必死に喋りだす。命乞いだろうか?何か甘いことでも言ったのだろう相手の気が緩んだ。
と、その隙をついて逃げ出し、地の利を活かす攻撃を仕掛け、しまいには自分の数倍はある妖怪をみんな撃退してしまった。

(ほう…)
なんと小賢しい奴よ。
こんなでも鈴木の手にかかれば戦力になるだろうか
仲間集め一号はこの幻魔獣にするとしよう。

「おい、そこの豚」

幻魔獣は、突然の失礼な声に振り向いた。
少し高いところから、ちょうど光を背に追う形で声の主は現れた。
神々しいまでの威厳を演出するには充分だった。

「浦島太郎を知っているか?」





***





「覚えたぜ、この痛み…!」
『闇アイテム・奇美団子』を使用し、強化する『黒桃太郎』。
「もうお前は俺に勝てねぇ!!」

幻魔獣には『裏浦島』と名づけ、それらしい格好、それらしい闇アイテムを与えた。
同様に『黒桃太郎』『魔金太郎』とチームメイトを創りだし、ついに『裏御伽チーム』が完成。
そこらの妖怪相手に戦闘の訓練を重ねた。


「ところで怨爺は今日もいねえのかよ」
ガムをくちゃくちゃと噛みながら黒桃太郎がいう。
「あいつは奥で休んでいる」
「ケッ」
ガムを吐き捨てる黒桃太郎
「引きこもってばっかりじゃねえか。あんなショボイ爺さんが大将で大丈夫なのか?きっと俺でも殺れるぜ?この闇アイテムがあれば…!」
奇美団子を手にニヤニヤ笑う。
「お前が副将でいいっていうなら俺が大将やってもいいんだぜ?」
と、死々若丸にすり寄るが

調子に乗るな。

殺気にも似た威圧が黒桃太郎に向けられる。
角こそ出ていないもののすっかり"鬼モード"になっていた。
黒桃太郎は馴々しく肩に触れようとした手をひっこめた。
「そのアイテムはお前のものだが、与えてもらったものだということを忘れるな。
  それにもう少し品性を養ってもらわねば裏御伽の名が穢れる。別に俺はお前でなくても構わないんだぞ?」
鋭い眼光で睨みつける。

「な、なんだよ、冗談が通じねぇな若様は」
冷や汗をにじませながら両手を軽く挙げ、そっと距離を置いた。
ちぇっ、と言いながら頭をかき、自室の方へ向かう。
「おーい魔金太郎、酒でも飲もうぜ」

「おい、わかってるな奥には…」
「へぇへぇ、『奥の部屋に近づいたら殺す』だろ?耳にタコだぜ。亭主関白な ワ カ サ マ !」
と、先ほどビビらされたのにも懲りずにへらへらとわめきながら部屋に消えた。



***



黒桃太郎たちにはどこからともなく という風に与えたが、闇アイテムはもちろん鈴木が創ったものだ。
『怨爺』が滅多に姿を表さないのはそれらを創造しているためである。

一番奥の部屋、鈴木の研究室。立ち入り禁止のその部屋の前に一人の影。
「俺だ。」
名前も言わないが、しかし鈴木以外でそこに来るのは一人しかいなかった。
すぐに中から返事が聞こえる。
「あぁ、ちょっと待て…今開ける。」


来訪者…死々若丸を迎え入れたのは、怨爺でもピエロでもなく、素顔の 鈴木。
「まぁその辺座れ」
言われる前から死々若丸は居場所を探しており、仮眠用のスペースに勝手に腰を下ろしていた。机に貼り付きなにやら作業を再開する鈴木を背後から見守る位置にある。

「奇美団子、何度か使ってみたが問題なさそうだ。気に入ったようで少々調子に乗っているが。」
死々若丸は鈴木の背中に話しかける。
「そうか。」
作業の手を止めずに返事をする鈴木。
「…死出の羽衣も順調だ。あれは面白い。しかしどこへ行ったのかわからんのが残念だな。」
「そうか。」
淡々とされる返事。
死々若丸は退屈で、足をぶらぶらさせてみたり部屋をうろうろしてみたりした。

やがて鈴木の傍に立ち、手元を眺めているのかと思ったらいつの間にかその視線は鈴木本人に向けられていた。
それに気づいた鈴木は訝しげに
「なんだよ?」

死々若丸は顔を見つめたまま
「…やはりお前、そのままの姿が一番いいな。」

あまりの唐突さに吹き出しそうになった。いきなり何を言い出すか…思わずなんか少し照れてしまったではないか。
そんな鈴木にお構いなく
「なぜわざわざ変装する必要がある。別に裏御伽でなくてもお前はそのまま出ればいい。」
しかし
「鈴木フィーチャリング裏御伽チーム?
  だめダメ、真のスターには表に出られない事情があるんだよ。」
冷静さを少し欠いている自分に内心焦りながらも、なんとか平静ぶる。
「それに俺はただの鈴木ではない、『美しい魔闘家鈴木』だと言っているだろう!」
なにかキラキラした気配を背負いながらキメるが
「うるさいバカ鈴木」
「バっ…!」
美しいどころか馬鹿とな…!
言い返す言葉さえ浮かばなくて口をぱくぱくさせる

「いいか忘れるな、たとえどんな姿をしてもお前の本質は変わらない。確かに変化は達者だが、そんな風に自分を誤魔化しても、俺にとってお前は紛れもなく鈴木だ。」

「……!」


「鈴木?…聞いているのか!」
「…ぁ、あぁ。」
死々若丸の言葉に、急に固まってしまった鈴木。呼びかけに返事はしたが、ぽかんとした顔をして まだ彼の頭は真っ白のようだった。

変な奴とはわかっていたが、やっぱり変な奴!
アイテムの使用感報告という用事も済んだことだし、様子がおかしい鈴木は放ってもう自分の部屋に帰る事にした。
「何かあったら来い。」
「あぁ…。」



死々若丸が去って、また一人きりになった。しかし尚も、鈴木はまともな気分に戻れなかった

『たとえどんな姿をしても』

先程の彼の言葉が何度も脳裏に響いて止まない。

『お前は』
(俺は…)

『鈴木』

(みつけたかもしれない)

『鈴木』

自分の名前を。それを呼んでくれる人を。

(死々若丸…)

変わりゆく自分の旅の終着点を。



***



それから数日後
怨爺は死々若丸に、調整を済ませた魔哭鳴斬剣を手渡した。
リミッターを設ける事により術者への負担を減らす事ができたという。
「しかし乱用は厳禁じゃ。きっとまたその刀による災いに遭うじゃろう。」
などと『怨爺』の今はまた仰々しいジジイ言葉。
死々若丸は刀を見つめながら不敵に笑う。
「問題ない、どんな奴も一撃で片付けてくれる」

死々若丸は外に出ると、久方ぶりの魔哭鳴斬剣を懐かしむように怨霊をかき鳴らした。
「なんだコレ…」
「ひでぇ音だな!」
それを聴きつけ何事かと、裏浦島たちも外に出てくる。
「フフフ…お前達 とくと見よ、これが魔哭鳴斬剣の…俺の力だ!!」
刀を振りかざす

(ついに、この刀を手にし暗黒武術会に出場する事ができる…)
裏御伽に栄光を。
ただただ高みを目指して

(絶対に勝つ)

「爆吐髑触葬!!!」





刀を叩き付けると爆煙の様に死霊が飛び出し、おどろおどろしい声は止まず周りの命を食い尽くす。
技が収まる時には 一帯は生気の欠片も感じられない、壊滅状態になっていた。
力を抑えているというが、むしろ以前より格段に威力が増しているようだった。
正しく力をコントロールできるとこんなに違うものか。
チームメイトたちはこの技に完全にビビッているようだが

「…怨爺」
刀を収めながらゆっくり言う。

「武術会はまだか?」

落ち着いた物言いにも、高ぶる感情が隠せない。
フォフォ、と怨爺は笑い

「もうすぐじゃよ、そろそろ人間界に渡ろうと思っておった。」





その後、すぐに 暗黒武術会への正式な切符を手に入れた『裏御伽チーム』
怨爺、死々若丸、裏浦島、黒桃太郎、魔金太郎の5名
首縊島にて、その名を轟かせる日を待つ。


過去捏造シリーズ、ようやく暗黒武術会出場です。
去年の夏ごろ 前作と一緒に大体書いてしまってあったのだが、なんだかんだしてるうちにメモリ故障でデータ紛失…
丸ごと書き直すのはなかなか辛かったです。
出場するには人間のオーナーが必要みたいなので探したんだと思いますが、鈴木さんの知謀と若さんの美貌があれば易いかと(笑)
ピエロさんに対して若さんが案外冷静なのが自分でも不思議なのですが…
鈴木さん、恋の予感。